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anko2218 ゆっくり爆発していってね 前編 anko2219 ゆっくり爆発していってね 後編
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『まりさ、ゆっくりしていってね!!! 下』 24KB いじめ 制裁 これにて完結。拙文ですが、ゆっくりしていってね… 「んっほぉおおおお!きもぢいいわああああ!」 「ゆっひいい!たまらないんだぜええええ!」 「やめでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!れいむずっぎり゛じだぐないよぉお゛お゛お゛お゛お゛!」 そこには、あのゲス2匹にれいぽぅされる母れいむの姿があった。 2匹は全身からぬらぬら光る粘液を分泌させ、執拗に体ごと母れいむにこすり付けている。 「こ…これって…」 「やだやだやだぁああ!あがぢゃんづぐりだぐないいいい!」 「ゆぁ~ん!?やかましいのぜえ!あのまりさがわるいのぜえ!?」 「そうよぉ!うらむならあのげすをうらみなさい!んっほおお!」 2匹が同時にすっきりー!するために、この方法をとったのだろう。 しかし、醜く、また赤く紅潮した顔で全身から粘液を出しているその姿は、形容しがたいものであった。 対して母れいむはれいぽぅの恐怖からか身動きが取れないようだが、全身で嫌悪感を表現している。 望まぬすっきりー!であるが故か、粘液の分泌も見られない。それが逆に、さらなる苦痛を母れいむに与えていた。 しばし呆然としていたまりさだが、はっと我に返り、動き出す。 「ゆぅうううー!」 『ドンッ!』 「ゆべぇええ!?」 「ゆぅううっ!」 『ドスッ!』 「ゆひい!?」 すっきりー!に集中していた2匹は、自分よりも体の小さい子まりさの、全力の体当たりを食らい転がってゆく。 「おかあさん!ゆっくりしてね!ゆっくりしてね!」 「あ、ありがとうおちびちゃん…ゆぐっ…」 「な…なんでこんな『ボグッ!』」 命に別状はないようだが、それでも受けたダメージは大きいようで、息も絶え絶えの母れいむ。 必死で母れいむを気遣う子まりさに、突然鈍い衝撃が走り、壁に激突する。 顔をあげた先にあったのは、2匹の憤怒の表情であった。 「やってくれたのぜ…このげすゆっくり!」 「せっかくわたしたちがにんっしんさせてあげようとしたのに、なんてことをするのかしら!?」 「れいむはにんっしんなんてしたくないよ!」 「だまるのぜ!そんなゆっくりできないできそこないのかわりに、 まりささまとありすのおちびをつくってあげようとしたのに…」 「そうよ!おやこそろってなんていなかものなのかしら!」 「「せいっさいだよ!」」 「ゆ、ゆぅうっ!」 2匹が逆切れし、母れいむと子まりさを制裁しようとする。 子まりさも、最近狩りで使うようになった長い枝を帽子から取り出し、身構える。その時だ。 「むきゅ!なんだかさわがしいわ!これはなんのさわぎなの!?」 「なにをしてるみょん!」 「「「「お、おさ!」」」」 たまたま母れいむの家を訪問した長ぱちゅりーと側近のみょんが、家の中の騒ぎを聞きつけて飛び込んでくる。 ついに、他人に知られてしまった。しかしもう親れいむももう被害を受けている今、誰にもそれを隠す必要はない。 長は、騒がしいことには気づいたようだが、何が起こったまでは把握できていないようだ。 ならば、早くこの2匹の悪行を長に報告しよう。そうすれば長による断罪が始まる。しかし… 「だれかせつめいしてちょうだい!」 「ゆ…ゆわぁああああああん!おさぁ!こわがっだんだぜええええ!」 「あのまりさが、まりさがあああ!とかいはじゃないのよおお!」 ゲス2匹は突然泣き出し、長ぱちゅりーに泣きつく。 「あのまりさが、じぶんのおかあさんをれいぽぅしてたんだぜ!」 「わたしたち、とってもこわかったわ!それでもゆうきをだしてなんとかとめたの!」 「そしたらまりさたちをえいえんにゆっくりさせてやるとかいってあのえだでぷーすぷーすしようとして…」 「ゆ、ゆうう!?まりさそんなことしないよ!」 『ぽいっ』 「そ、そうだよ!れいむのかわいいおちびちゃんはそんなことしないよ!」 「むきゅう…こんがらがってきたわ…」 ゲス2匹の狂言に、慌てて咥えていた枝を捨て、身の潔白を訴える子まりさ。 母れいむも子まりさを必死で庇う。 長ぱちゅりーは食い違う両者の証言に混乱している。 「ひどいことをされていたのはれいむでしょう?」 「そうだよ!おかあさんがまりさとありすにれいぽぅされてたんだよ!」 「そのれいむがおちびちゃんがわるくないっていってるのだったら…」 「おさ!そんなのあのれいむがじぶんのおちびをかばっているだけなのぜ!」 「そうよ!…それともおさ、あんなゆっくりしてないゆっくりのいうことをしんじるつもりなの!?」 「むきゅ!?」 「そうだぜ!あんなののいうことをしんじるなんて、おさはどうにかしてるのぜ!」 「おさ!まりさそんなこと…」 「むきゅう、まりさ、すこしだまるのよ。」 ゲス2匹の言葉を聞き、はっとした表情になる長ぱちゅりー、 そして子まりさの言葉を遮り、しばし考え込む。そして導き出した結論は 「みょん、れいむのおちびちゃんをせいっさいしなさい。」 「ゆっくりりかいしたみょん。」 子まりさへの断罪であった。 〝ゆっくりしてないゆっくり〟これが決定打となった。 その場の状況や、両者の証言を全てすっ飛ばし、子まりさが悪と決めつけるには十分すぎる理由であった。 〝ゆっくりしてないゆっくり〟これは普通ゆっくりの世界において、何においても悪なのだ。 「なんでえええ!?ぱちゅりいいいい!?」 「むきゅ…れいむ、おちびちゃんがかわいいのはわかるわ…それでもね、わるいことをしたら ちゃんとせいっさいされないといけないのよ?わかってちょうだい。」 「やだやだやだあああ!おちびちゃんなんにもしてないのにいいい!」 「むきゅ!?まりさ!ありす!れいむをおさえるのをてつだってちょうだい!」 「ゆっくりりかいしたぜ!」 「ゆっくりりかいしたわ!」 暴れる親れいむを必死で押さえつける長ぱちゅりーとゲス2匹。 「みょん。おねがいね。」 「やめでええええ!おぢびじゃあああああん!」 「れいむ、しっかりみておくのよ。おやとしてのぎむだわ。」 「ゆ、ゆわぁあ…やめてよぉ…こわいよぉお…」 「ころしはしないみょん。さぁ、いくみょん。」 『バァン!』 「ゆぶえっ!」 未だかつて味わったことのない激痛が子まりさを襲う。 ゲス2匹による暴行も、所詮は子ゆっくりのもの。しかもある程度手加減していたのだ。 しかし、これは大人の、しかも長の側近を務めるほどのみょんの一撃だ。威力は桁違いである。 一撃打ち据えられるごとに体中の餡子が震える。そして、何度も何度も木の枝で打ち据えられた。 「ゆぼぉっ!」 『びちゃびちゃ』 「そのくらいでいいわ、みょん。」 ついに餡子を吐き出してしまう子まりさ。それを見た長ぱちゅりーは頃合いと判断し、みょんを制止する。 子まりさは打ち据えられながらも、その目は一つ所を見つめていた。 それはゲス2匹のいる場所。 2匹は子まりさを卑しく、満面の笑みで見つめながら、母れいむに向かって腰をヘコヘコと動かしれいぽぅの真似事をしている。 決して、長ぱちゅりーや側近みょんからは見えないように注意を払いながら。 本当に少しだけだが、ぽつり、と子まりさは心の中で、己が身を苛む灯火が灯るのを感じた。 「それじゃあみんないきましょう。まりさ、あなたをおかあさんからひきはなすことまではしないわ… でも、つぎにこんなことがあったらついっほうもしかたがないとおもいなさい。」 「そうだみょん。れいむもなにかあったらえんりょなくだれかにいうみょん。」 「ゆっへっへ…じゃあせいっさいのつづきはまりさたちが…」 「むきゅう。だめよ、まりさとありすもかえるのよ。」 2匹は続けて子まりさを制裁しようとするが、長ぱちゅりーに止められ、仕方なく家を出ようとする。 その時、何か思い出したかのように急いで子まりさに駆け寄ると、ひそひそと耳打ちをする。 「まりさがちゃんときてればこんなことにならなかったのにねぇ…」 「あしたもあそこにいるのぜ…こなかったらつぎこそにんっしんさせるのぜぇ…?ゆひひひひ…」 その言葉をうつむいて聞く子まりさ。 先程心に灯った灯火が、音もなくかき消えてゆくのを感じていた。 そして、家の中には子まりさと母れいむだけが残った。 「ゆぐ…ごべんねえおがあざん…」 「おちびちゃんはわるくないよ…ゆ!もしかしておぼうしも…」 「……」 『コクリ』 「ぐすっ…こんなときまりさがいてくれたら…」 「ゆ、ゆええええ…」 「ゆわぁああああん…」 母子は、だれにも頼ることのできない絶望に打ちひしがれ、ただただ泣き続けた。 どうして帽子がゆっくりしてないだけでこんな仕打ちを受けるのか? 子まりさが何か悪いことをしたのか? それとも、母れいむが何か悪いことをしたのか? その答えを見つけることはできない。 しいて言うならば、〝ゆっくりに産まれた〟これに尽きる。 身も心も知能も、脆く弱く儚い。 善悪だって、お飾りひとつでいとも簡単に決められてしまう。それがゆっくり。 そんな存在は、ゆっくりしていると言えるのだろうか?なぜ人はこんなゆっくりをゆっくりと呼ぶのだろう? それでもこの場で唯一、ゆっくりしている、と言えるのは、この母子の間に結ばれた親子の絆のみであろうか。 「ゆぅ、ゆっくりいってきます…」 「おちびちゃん、どこにいくの…?」 「み、みんなのところだよ…」 「あのまりさとありすのところじゃ、ないよね…?」 「ち、ちがうよ!とにかくゆっくりいってきます!」 母れいむの言葉を振り切り、家を飛び出す子まりさ。 今朝は、いつもに増して食が細かった母れいむ。昨日の出来事で心身が弱っているのは明らかだった。 そして、行くところなんて決まっている。あの2匹のところだ。 子まりさはまた食料を集め、あの洞窟へと向かう。 「ゆ!ようやくきたのぜ!」 「おそいじゃない!またれいぽぅしにいってあげてもいいのよぉ~?」 いつものように子まりさの持ってきた食料を平らげる2匹。 そして今日もまた虐めが始まるかと思ったが、少し違うようだ。 「ついてくるのぜ。」 「ゆ…?」 今日は洞窟ではない、別の場所で虐めを行うようだ。 2匹に連れられ、後をついていく子まりさ。 すると、だんだんと景色が見覚えのあるものに変わっていくのがわかる。 「ついたのぜ!」 そこは、奇しくも父まりさとの思い出の、あの崖だった。 「こ、ここは…」 「ゆぁあ?きたことあるのぜ?」 「な、ないよ…はじめてきたよ。」 ここが父まりさとの思い出の場所であることなど、口が裂けてもいえない。 もし言えば、2匹はうんうんやしーしーをまき散らすなどして、嬉々としてこの場所を、思い出を、穢すだろうから。 「きのうのかえりにみつけたのぜ!」 「きょうはここでたのしくあそぶわよぉおお!」 最も、言わなかったとして、穢されるのがましになるだけだ。 「さぁ、そこのはしっこにたちなさい!」 「ゆぅ…」 「はやくするのぜ!」 2匹の指示通り、崖の端に立たされる子まりさ。 (よくここから、おとうさんととおくをながめたっけ…) 父まりさとの思い出に浸る子まりさ。 『ドンッ』 いきなり突き飛ばされた。 流石に突き飛ばされるとまでは想像していなかった子まりさは、頭が真っ白になる。 そして、子まりさの足元から地面が消える直前… 『ガシィ!』 2匹に両端からあんよをつかまれる。 つかまれていなかったら。確実に落ちて永遠にゆっくりしていたことだろう。 そして2匹は子まりさを崖から逆さづりにする。 「ぶ~らぶ~らなのぜ~♪」 「とってもとかいはねえ~♪」 「ゆわぁああああ!こわいよおおおおおおお!」 眼前に広がるのは遠く離れた地面。 もしこの2匹が子まりさを離せば、確実に落ちるだろう。 その時、一陣の風が吹き抜けた。 「ゆ、ゆんやぁああああああああああああ!」 いつもは嫌な気持ちを吹き飛ばしてくれる爽やかな風も、今は恐怖を助長することしかしない。 そして… 『ふわり』 「ゆ…?ゆぁあああ!まりさのおぼうしいいいいいいいいいいいいいい!」 風に吹かれて、子まりさの帽子が崖下へと落ちていった、 どんどん遠ざかり、小さくなっていく帽子。 「ゆがらぁあああっ!」 『ブォンッ!』 「ゆひっ!?」 「どがいばっ!?」 何処にそんな力があったのか、あの状況から無理矢理体を起こし、2匹を振り払う。 そして、駆けだす。2匹の怒号と罵声と笑い声を背に浴びながら。 子まりさは今、崖下に来ていた。 探せども探せども、落ちた帽子は見つからない。 辺りも薄暗くなり、危険な時間帯になってきたが、構わず帽子を探し続ける。 そんな子まりさの思いが天に届いたのか、帽子が見つかった。まさに奇跡だ。 「ゆわぁ…まりさのおぼうし…おかえりなさい!」 帽子をかぶるまりさ。さぁ、家に帰ろう。そう思った時、ふと、何者かの声が聞こえた。 「うー。」 思わず辺りを見渡す子まりさ。初めて聞く声ではあるが、本能がその声は危険だと警告を発する。 手近に落ちていた長い木の枝を咥え、辺りを見渡す。 「うっぅー。おいしそうだどー。」 何処から声が聞こえてくるか子まりさは確信する。真上だ。見上げると、そこには 「いただきますだどー。」 「れ、れみりゃだああああああ!」 捕食種、ゆっくりれみりゃが飛んでいた。 まりさはその場に固まってしまう。そして今までのゆん生の走馬灯がまりさの餡子脳を駆け巡る。 (おとうさん、おかあさん、ごめんね…) 頭をよぎるのはかつての記憶。 おねしょした時、母れいむがやさしくおしめを取り換えてくれた時のこと。 父まりさと追いかけっこをした時、こけて泣きわめく自分を見て、おろおろする父まりさの顔。 親子3匹で、くっついて眠った夜。 思い出のあの崖で、父まりさから狩りの仕方や、野宿の仕方、そして戦いの仕方を教わった事… 戦いの仕方…戦いの仕方…!? 「ゆぅうっ!」 「うーっ!」 『ゴォッ!』 思わずその場から飛び退く子まりさ。 その脇を、れみりゃがものすごい勢いで通り過ぎていく。 れみりゃが起こした風が、子まりさの頬を乱暴に撫でる。 「ゆっ!」 そして、れみりゃに向かって枝を構える。 ゆっくりの攻撃は、基本的に直線だ。その為、相手に向かって枝を突きつけるように構えるだけで、 十分有効な戦法となりうる。 「うぅううー…やりにくいんだどぉー…」 事実れみりゃは攻めあぐねている。 どこから攻めようとしても、自分の方をあの枝が向いている。 しかし、れみりゃも伊達に捕食種ではない。 「うっうー!」 子まりさの周りを、円を描くように飛ぶれみりゃ。 次第に子まりさはその動きについていけなくなる。そして、ついにれみりゃが子まりさの背を捉える。 「ううう!」 『ドガッ!』 「ゆーっ!?」 れみりゃの攻撃は子まりさを掠めただけだったが、それでもバランスを崩すことはできたようだ。 そして、ゆっくりにとって一番反応しにくい、真上からとどめを刺そうとする。 しかし、子まりさは諦めてはいなかった。父まりさの教えがよみがえる。 敵の姿が見えなくても、声の聞こえる方向に武器を向けること。そして、絶対に諦めないこと。 「うううううー!しねぇっ!」 「ゆぅううー!」 れみりゃの声が真上から聞こえる。 それに反応し、子まりさは枝を強く噛みしめ、あおむけになった。 『ずぶっ』「う…うー。もっと…ゆっくり…」『どさっ』 そして、奇跡はまた起こった。れみりゃは自ら枝に刺さりに行ってしまったのだ。 子まりさの枝はれみりゃの中枢餡を的確にとらえ、れみりゃは力なく地面に落ちる。 一撃で、れみりゃは絶命していた。 「ゆはっ、ゆはっ、ゆはっ…」 何とか死線を乗り越えた子まりさ。 最初はれみりゃとの戦いの余韻が残っていたが、時間がたつと、それも冷めてきたようで 「ゆ、ゆひいいいいいいいい!」 出来る限り後ずさり、れみりゃの死体から距離を置く。 今更になって、恐怖が襲ってきたのだ。 「ゆゆぅ、しかたないよ…」 そう、仕方ない。 同族殺しは禁忌とはいえ、それは捕食種以外での話。 通常種は捕食種の餌でしかなく、互いに決して相容れない存在。それは子まりさにも分かっていることだ。 しかし、相容れない存在とは言え、姿形が似通っているのもまた事実。 枝を咥えていた子まりさの口に今も残る生々しい感触は、捕食種だから仕方ない、で片づけられるものでもなかった それを理解するのに、子まりさの心ははまだ幼すぎたのだ。 必死で、自分を正当化する子まりさ。 やらなかったらやられていた。だから仕方ない。 ああするしかなかった。だから仕方ない。 先に仕掛けてきたのは相手の方だ。だから仕方ない。 やられたら、やりかえす。そうだ、そうなんだ。 自分を正当化し続けた末に、ようやくれみりゃを殺した感覚もましになってきた頃、子まりさはあることに気が付く。 そう、先に仕掛けてきたのは相手。やられたら、やりかえせばいいんだ。 その考えに思い至った子まりさの目の光は何処までも昏く、澱んでいた。 子まりさは、自分の心の中に再び灯火が灯る音を確かに聞いた。 そしてそれは炎となり、激しく燃え上がるのを感じていた。 (くらくなってきたよ…きょうはもうおそとでねるよ。) 子まりさはれみりゃの死体に近づくと、枝を引き抜く。 そして、その枝を帽子にしまい、捕食種に見つからないように茂みに身を隠し、眠りについた。 時は昼頃。場所はあの洞窟。普段なら子まりさが食料を持ってやってくるような時間帯なのだが、 未だ子まりさの姿は見えない。 ゲス2匹は痺れを切らし、また制裁と称し母れいむをれいぽぅしにいこうか…そんなことを話していた。 「ゆぁあ~おっそいのぜぇ!」 「ありすたちがこわくなったのかしらぁ?」 「ゆひひひ!それならこんどこそにんっしんさせてやるのぜ!」 「んっほぉおおおお!」 「それじゃあさっそ『ドスッ!』」 「な、なにが『ドムッ!』」 と、不意に2匹の体に衝撃が走る。訳も分からず転がる2匹。 そして事態を理解するよりも早く、2匹のあんよに焼けたような激痛が走る。 「ゆんやぁあああああ!いたいのぜええ!?」 「と、と、と、とかいはじゃないわああああ!?」 2匹のあんよには、真一文字に大きな切り傷ができており、そこから餡子が漏れ出していた。 もうこの2匹は傷が癒えるまで移動することはできないだろう。 「ゆっ。まりさはきょうもちゃんときたよ。」 それを為したのは子まりさだった。 「ゆぎぃいい!なにをしてるんだぜ!」 「これはもしかして、まりさのしわざなのかしらぁあ!?」 「……」 子まりさは答えない。無言でゲス子ありすに近づくと、その頭からカチューシャを奪い取る。 「な、なにをしてるのこのげす!ありすのおかざりをかえしなさい!」 「ゆっ。」 『ベキャッ』 「…ゆ?」 「ゆっゆっゆっ。」 『ベキッベキベキッ』 「ゆ、ゆわああああああああああ!ありすのおかざりがああああああ!」 ゲス子ありすのカチューシャを執拗に踏みつける。 それが2つに割れても、4つに割れても、6つに、8つに割れてもひたすら踏みつける。 やがて、カチューシャが粉々に砕け、原形をとどめなくなった時点でようやくそれは終わった。 「あ、あぁ…ありすのゆっくりしたおかざりがぁ…」 「なにやってるのぜええええ!せいっさいしてやるからはやくここにくるのぜええええ!」 「…ゆんっ。」 『ぱしっ』 「…ゆ?」 次はゲスまりさの番だ。淡々と帽子を頭から払い落す。 「ゆっ。ゆゆゆっ。」 『ぶちっぶちっぶちっ』 「な、ななななにやってるのぜええ!?」 「ゆんっ。」 『ぶちっ』 「や、やめるのぜえええええええ!」 「ゆんゆんゆん。」 『ぶちぶちぶち。』 ゲス子まりさの帽子もカチューシャ同様ばらばらに引き裂く。 やがて、すべての破片がこま切れと呼べるくらい小さくなった頃、子まりさはそれらを口に運ぶ。 「むーしゃむーしゃ。」 「おねがいでずうううう!やめでえええええ!!」 「むーしゃむーしゃ、さいあくー。」 『ごくん』 「ゆあああああああああああ!」 ゲス子まりさの目の前で、咀嚼する様を見せつける子まりさ。 そして、それを飲み下す音までを、しっかりとゲス子まりさに伝えた。 「ゆ、ゆぐっ…どぼじでごんなごどに…」 「なんでぇえ…ありすなんにもしでないのにいいい…」 「まりさ、ありす。」 「ゆがぁっ!?」 「なんなの!?このげす!」 「いまから、まりさとありすであそぶよ。がんばってね。」 「「…ゆぅ?」」 子まりさはそれだけ告げると、帽子の中から木の枝を取り出した。 「ぷーすぷーす。」 『ずぶっ』 「ゆっひいいいいいい!」 「ぬーきぬーき。」 『ずぶぶ…』 「ひぃいいいいいん!」 「ぷーすぷーす。」 『ずぶっ』 「ゆがばああああああああ!」 ゲス子ありすの体に、何度も枝をつきたて、抜き、またつきたてる。 木の枝は当然自然のものだ。人工物のように滑らかな形状をしているはずもなく、 いたるところに突起やささくれが見られる。 それらが、体内をかき混ぜる。その激痛はいかほどのものなのだろうか。 「…ゆっ!」 『ゴガッゴンッゴグッ』 「ゆっびぃえええええええ!」 「す~りす~り。」 『ゴリゴリッ』 「ぎゃぁああああああああああ!」 次は、枝で歯を砕く。何度も、何度も砕く。 そして、あらかた砕き終わった後、歯の根元、神経が集中しているであろう場所を、 枝で執拗に削り取る。 ゲス子ありすは、もはやゆっくりらしからぬ悲鳴をあげている。 「ありすはあきたよ。つぎはまりさにするよ。」 『ずぶぶ…』 「ゆぎ…いぃいいい…」 「ぷーすぷー『こつん』…ゆ。」 「ゆ、ゆぴぃっ!」 ゲス子ありすの体内にゆっくり、ゆっくりと枝を差し込んでゆくと、 やがて何かにぶつかる感じがあった。そう、中枢餡だ。 子まりさは、枝の先端を中枢餡から逸らすと、枝の側面で中枢餡を削り始める。 「ごーりごーりするよ。」 『ごりっごりっ』 「hすhfdぁうgだふぁ!?」 「ごーりごーり。」 『ごりごりっ』 「しklfjぉyfぃ!」 中枢餡を傷つけられ、まともに言葉もしゃべれなくなったゲス子ありす。 枝を通じて子まりさに、ゲス子ありすの命を削る感覚が確かに伝わってくる。 しかし、子まりさは止めない。 いつしか、子まりさは一つの言葉だけを繰り返していた。 「しかたない、しかたない…」 『ごりごりごり』 「sんヴj…いうhヴsdhvmヴぁ…」 「しかたない、しかたない…」 『ごりごりごり』 「……」 ただひたすら、ゲス子ありすが事切れたのにも気づかず中枢餡を削り続ける。 そして枝を引き抜いたかと思うと、ゲス子ありすの死体を枝で何度も何度も切りつける。 やがて、我にかえったときにはぐちゃぐちゃの饅頭がそこにあるだけだった。 「つぎはまりさであそぶよ…」 「ゆっひぃ!ごべんなざいなんでもじまずが『ドスッ』ゆぎゃああああ!まりざのおめめがあああ!」 「ぐーりぐーりするよ。」 『ぐりぐり』 「ゆばばばばばばぁ!」 ゲス子まりさの謝罪など全く意に介さず、その右目に枝をつきたてる。 つきたてた後は、枝を回し、かき混ぜる。 そして、勢いよく枝を引き抜いたかと思えば 「ゆっ!」 『ドスッ。ぐりぐり』 「ゆんやあああああああ!」 次は左目に枝をつきたてる。そしてかき混ぜる。 そして枝を引き抜いたとき、ゲス子まりさの世界は、闇に包まれていた。 「ごべんなざい、ごべんなざい、ごべんなざい…」 「……」 『ブチュッ』 「ゆひゃあああ!」ごべんなざいごべんなざい!」 「……」 『プチッ』 「ゆるじでえええ!もうゆるじでよぉおおおお!あやまっだでじょおおお!? だがらはやぐまりざざまをゆるぜえええええええ!」 謝罪をし、ただひたすら助けを請うゲス子まりさの体に、少しだけ枝を刺す。 枝を刺されるたび、ビクリと震え、さらに大きな声で助けを請う。 しかし、子まりさは絶対に助ける気などなかった。 長い時間をかけた後、ゲス子ありすと同じ場所に送るのだ。 「ゆっ!」 『ドスゥッ!』 「ゆぎゃあああああああああああああん!いぢゃいよおおおおお!」 「ゆゆゆ…」 『ぐりぐりぐり』 「ゆっぼぼぼぼぼぼ?!」 今度は体に枝を深々とつきたて、かき混ぜる。そして抜く。そしてつきたてまたかき混ぜる。 決して中枢餡を傷つけたりはしない。 どのくらいの時間それを繰り返しただろうか、ゲス子まりさはもう息も絶え絶えだ。 「ゆひぃい…じにだぐない、じにだぐないよぉおお…」 「ゆっ。」 『ずぶぶ…こつん』 「ゆびゃあああ!?」 ゲス子ありすの時と同じように、中枢餡に枝の先端が触れる。だが、今度は先端を逸らしたりしない。 下手に傷つけるとしゃべれなくなることが分かったから。 子まりさは、ゲス子まりさは死の間際まで徹底的に怖がらせようと思っていた。 「まりさ…」 「ゆ、ゆひぃっ!?」 「このえだをね…もうちょっとだけぷーすぷーすしたらね、まりさはしんじゃうんだよ。」 「や…やだやだやだあ!しにたくないんだぜええええええ!」 「しにたくない…?」 「ごべんなざい!ゆるじでえええええええ!」 「……」 じゃあ何に謝っているのか、ゲス子まりさにそれを尋ねようとしたが、止めた。無駄だ。 子まりさは返事の代わりとして 「まりさ…えいえんに、ゆっくりしていってね!!!」 『ズグッ!』 「も…ぢょ…ゆっぐり…しだか…だ…」 思いっきり枝を押し込んだ。 ゲス子まりさの断末魔を聞いた子まりさは、目を閉じて、大きく息を吸い込み…ふぅ、と吐いた。 そして次に子まりさが目を開いたとき…その目には、何の光も宿っていなかった。 底が見えないほどの暗闇が、その目の中にあった。 子まりさの足は、自然とあの場所へ向かっていた。 子まりさは、父まりさとの思い出の崖に立っていた。 父まりさとの思い出がよみがえる。が、それだけだった。何も、感じなくなっていた。 崖の端に立ち、遠くを見渡す。その時、さぁ、と風が吹き抜けた。 子まりさは目を閉じ、風に吹かれていた。風に吹かれていると、全てが赦されるような、そんな気持ちになる。 つ、と子まりさの頬を涙が伝う。涙の訳は子まりさにもわからない。そして、その涙を振り払うことはしない。 しばらく、子まりさはそのまま風に吹かれていた。やがて、子まりさは… 崖 か ら 身 を 投 げ | 『ぐしゃ』 後に残ったのは、子まりさだったもの。その時、また風が吹き抜ける。 子まりさの帽子は風に乗り、高く、高く高く舞い上がる。 そして風に運ばれ、やがて川に落ちた。 川に落ちて、沈んでいった。 そして子まりさは、いなくなった。 子まりさが群れからいなくなって数日経った。あれからいろいろあった。 あのゲス2匹がいなくなったと、群れでは小さな騒ぎが起きた。 2匹の死体は洞窟で発見されたが、誰も元々それがゆっくりとは分からず、群れのゆっくりの食料となった。 子まりさもいなくなったが、それに関して騒いだのは母れいむだけで、他のゆっくりは全く関心を払わなかった。 そして今、母れいむは 「ゆぅう~ん!きもちいいよぉ~!まりさぁ~!」 「ゆふぅう!れいむのまむまむ、さいっこうなのぜ!」 家で、新たな夫であるまりさと交わっていた。 「「すっきりー!」」 母れいむのお腹がポッコリと膨らむ。新たな命の誕生だ。 「ゆわぁ…おちびちゃんゆっくりうまれてきてね…」 「まりさとれいむのおちびちゃんなのぜ。ゆっくりしてるにきまってるのぜ!」 子まりさが、2日も続けて帰ってこないことに違和感を覚え探し回った母れいむは、その中でこのまりさと出会う。 群れの誰もが、れいむの子供がゆっくりしてないことを知っており手を貸さなかったが、このまりさだけは別だった。 れいむと一緒になって子まりさを探してくれたのだ。 そして、2匹で探し回った結果、まりさがある結論を導き出した。 「きっと、れいむのおちびちゃんはひとりだちしたのぜ!」 「ゆ、ゆぅうう!?」 あの子が…と母れいむは最初こそ仰天したが、よくよく考えたら自分で狩りもできるくらいに成長していたのだ。 独り立ちしたっておかしくない、そう母れいむは確信した。 実際は、親に何も告げずに独り立ちするなど、ゆっくりの世界においても普通有り得ないのだが、 そこは自分の都合のいい解釈をする餡子脳。あっさりとそう結論付け、子まりさ捜索は打ち切られた。 そしてそのまま2匹は夫婦となり、こうして子作りをするに至ったのだ。 母れいむは、夫を失った悲しみを新たなまりさで埋め、子供は立派に独り立ちした…何も心配することはない。 そう思うと、体に元気が湧いてきた。そして何日かですっかり体調も戻り、子作りできるほどに快復した。 「ゆっゆっゆっ。」 母れいむは身重の体を引きずり、家の外に出る。太陽の柔らかな光が母れいむの体に降り注ぐ。 そして空を見上げ、高らかに言い放つ。今はもういない子まりさに届くようにと願いを込めて。 「まりさ、ゆっくりしていってね!!!」 完 紅玉あきの過去の拙作達 anko2610 禁句 anko2624 最強の人間 anko2667 ぐるぐるわーるど anko2668 ぐるぐるわーるど before anko2699 ゆんやモンドは永遠の輝き anko2707 紅玉は月下に舞う 誤字修正版 anko2810 ドスまりさが あらわれた! anko2856 おこた でっけぇ! anko2873 お山の大将 anko2874 お山の大将 dream anko2875 おうたのはこ anko2883 ひじりしんどろーむ anko2888 廃教室の怪 anko2909 いつまでも続けばいいな anko2914 奪・ゆっくり
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ゆっくりしていってね!!! _,,....,,_ _人人人人人人人人人人人人人人人_-''" `''> ゆっくりしていってね!!! <ヽ  ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄ | ;ノ´ ̄\ \_,. -‐ァ __ _____ ______ | ノ ヽ、ヽr-r'"´ (.__ ,´ _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、_ イ、_,.!イ_ _,.ヘーァ'二ハ二ヽ、へ,_7 'r ´ ヽ、ン、 rー''7コ-‐'"´ ; ', `ヽ/`7 ,'==─- -─==', ir-'ァ'"´/ /! ハ ハ ! iヾ_ノ i イ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i |!イ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ ,' ,ゝ レリイi (ヒ_] ヒ_ン ).| .|、i .||`! !/レi' (ヒ_] ヒ_ン レ'i ノ !Y!"" ,___, "" 「 !ノ i |,' ノ !'" ,___, "' i .レ' L.',. ヽ _ン L」 ノ| .| ( ,ハ ヽ _ン 人! | ||ヽ、 ,イ| ||イ| /,.ヘ,)、 )>,、 _____, ,.イ ハ レ ル` ー--─ ´ルレ レ´ 東方関連動画や、MUGENで大活躍中の愛くるしいイキモノのようなナマモノ。 左の黒い大福が「ゆっくり魔理沙」といい、右の紅白の饅頭が「ゆっくり霊夢」だ! 幻想郷にこの2人と似ている紅白巫女と普通の魔法使いがいるが、そいつらは偽物だぞ! MUGEN動画では凄まじい能力を持っているが、本人曰くカンフーマン(MUGENに入っている最初のキャラクター)でも倒すことができるらしい。 ののワさん、たこルカと共に誤算家と呼ばれている。 【把握?参考動画】 [棒歌ロイドオリジナル] もっとゆっくりでいいよ [ゆっくりしていってね] http //www.nicovideo.jp/watch/nm4909432 ゆっくりれいむとおさいせん箱 http //www.nicovideo.jp/watch/nm4933623 mugen ゆっくり魔理沙が暴れるようです http //www.nicovideo.jp/watch/sm2344613 mugen ゆっくり霊夢がパワーアップしたようです http //www.nicovideo.jp/watch/sm2385968 MUGEN と ゆっくりしていってね!!! の きーわーど で ゆっくり けんさくしていってね!!!
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俺がその事に初めて気がついたのは、春も終わり、季節が変わろうかというくらいの事だった。 その日は朝から雨で仕事も無く、家で手前の大工道具を整備していた時の話だ。 自分以外誰もいない部屋の下から、何やら物音がする。 最初は猫か犬やらの類かとも思ったが、よくよく耳を澄ましてみればどうにも人間の会話である。 泥棒が暢気に床下に潜んで……などと言うことはあるまい、それならば思いつく生き物はひとつしかない。 気づかれぬようそっと縁の下を覗いて見れば、案の定そこにいたのはゆっくりだった。 「ゆっくりまにあったね!」「ここならあめもはいってこないね!」「ちばらくゆっくりまってようね!!」 どこにでもいるようなゆっくりれいむの家族が、床下に入り込んで雨宿りをしているようだった。 ……まぁ、雨宿りくらいなら別に構わないだろう。 俺自身は、特にゆっくりと言う生き物に嫌悪感などを持っている訳ではない。 親父も俺も、大工として生計を立てていたので、畑を荒らされたりした経験も無い。 「家に入って荒らされた」なんて話も、俺から言わせりゃ間抜けと不用心の極みだとしか思えなかった。 空き巣ならまだしも手も足も無い生き物に侵入されるなんて、戸締りのひとつでもしときゃ済む話、単なる自業自得だ。 命を粗末にするなと言う親父の教えもあったかも知らんが、そうでなくとも生き物を殺していい気分になんてとてもじゃないがなれやしない。 仕事仲間の、昨日はたまたま見つけたゆっくりどもを何匹潰しただの、腹いせに踊り食いしただのなんて話は、正直聞いていて不愉快で仕方が無い。 野生には野生の、人間には人間の領分はあるだろうし、それを犯したものが何らかの反撃や報いを受けるのは仕方ないだろう。 だが、基本的に向こうが何もしてこない限り、こちらも何もしない。 何かされたとしても、できることならさっさと逃げるか逃がす。 野生の生き物だけでなく、人間以上の力を持つ妖怪や妖精なんてものがごろごろいるこの幻想郷で生きていくにはその方が都合がいい。 だから、俺は餌をやることも存在を示すことも無く、そのまま放っておく事にした。 何日か過ぎてから、ふと思い出して床下を見ると姿は無く、住処にしようとしている形跡も無かった。 それからしばらくは天気が良く毎日仕事があった事もあって、俺はその存在を半ば忘れかけつつあった。 そして時間は過ぎて、今度は梅雨に入ったくらいの時。 大工にとって、この時期ばかりはどうにもならぬ。 瓦を乗せる所まで行っていればまだ何とでもなるのだが、今年はそうは行かなかった。 普通なら棟梁も梅雨に入る時期は余裕を見て早めに仕事にかかるものだが、今回は古いお得意様からの急な依頼と言う事で、やむなく予定を割り込ませて始めたのだ。 そのためにぎりぎりで瓦を乗せる所まで間に合わず、今の有様になっている。 降るのか止むのか、長いのか短いのか。 お天道様には敵わないのでどうしようもないし、いつまで続くかも分からんので無駄に金も使えない。 そんな時だ、床下からあの声が聞こえてきたのは。 おいおい、まさかまた来たんじゃないだろうな。 いつぞやのように覗いて見れば、そこにいたのは成体になったくらいのゆっくりれいむとゆっくりまりさだ。 ……正直な所、ゆっくりの個体の見分けなんざまったくつかんので、れいむの方があの時の奴と同じ奴かどうかまでは分からんが。 考えてみれば、この家の場所は山と草原の間くらい。 遊んだり餌でも取りに来たりしたゆっくりが山から草原へ、あるいはその逆へ。 雨に打たれて住処へと慌てて戻ろうとするのなら、真ん中くらいのここは雨宿りするのにはちょうどいい場所なのだろう。 ま、しょうがねぇか。 雨が止めばこの前のようにどっかに行くだろう。 それよりも、とっとと止んでくれねぇモンかな。 俺の頭を占めるのは、そいつらのためではなく俺の給料のためにいつ雨が止むかということだった。 幸いにも今年の梅雨は短かったらしく、いつもよりは早く夏の日差しが照りつけ始めた。 瓦を乗せられなかった所為で生じた遅れを取り戻すため、俺は何時にもまして働きづめの毎日を送っていた。 朝から日が暮れるまで働き、終わった後は皆で飯と酒。 家に戻れば疲れもあって風呂もそこそこに即寝床行き。 なかなか雨が降る事も無く、定期の休みも疲れて寝ているか、外で時間を潰すかだったので、俺は床下で起こっていた事にまるで気づかなかった。 それは、今にして思えば俺の一生を大きく変える出来事だったのだ。 「それ」に気がついたのは全くの偶然だった。 ある休みの昼前、飯を外に食いに行こうか家で済ませるか、縁側でぼーっと考えていた時だった。 視界の端、玄関の方で何かの影が動いたように見えたのだ。 立地条件もあり、連れくらいしかあまり訪れる事も無い家だが動物か何かだろうか。 もし客人なら対応せねばなるまいと、億劫ながらも草履を履いて玄関に向かう。 だが、そこには誰もいない。 見間違いかな、と思った時だ。 今度ははっきりと黒い何かが見えた。 ありゃあ……ゆっくりまりさか? にしてもこんな所で見るとは。 ここらあたりに畑は無いし、真っ昼間から単独行動とは珍しい。 興味を持った俺は、音を立てぬようにそっと隠れると、角から顔だけを出して行き先を探った。 するとそのまりさは、さっき俺が居た縁側とは反対の場所から床下に入って行ったではないか。 今抱いた興味なんぞ一瞬でどこかへ吹っ飛んでった俺は、慌てて床下を覗きこむ。 ……やられた! そこには判りにくいが、まりさの他にゆっくりれいむまで居た。 今は晴れている、よって雨宿りなどではない。 恐らく梅雨時のあいつらだろう、いつの間にか住み着かれていたのだ。 それを示すように、れいむの周りには藁などが集められており、あからさまに住居の態を成している。 しかも、れいむの頭の上には蔓が伸び始めているではないか。 縁の下ならばすぐに気がついて追い出したかもしれないが、最近の忙しさに加え、家の奥手、普段長居する事の無い部屋の下だったので発見が遅れたのだ。 さて、どうしたもんか。 とは言え、さすがに子供までこさえた所を追い出すのも気が引ける。 だが、家の中にこいつらをあげようなどという気にまではならない。 上げたら最後、その餡子脳で愚かにもここが自分の家だと主張するに決まっている。 そうなったらば、俺の方が我慢できるか保障はねぇしな。 しょうがねぇ、子供が生まれるか害が出るまで現状維持か。 それから俺とゆっくりの奇妙な共同生活が始まった。 一応上に人間がいる事には気がついているらしい。 不思議と表に出る所を見ないので、わざとあちらに見えるように足を下におろし、棒の先に鏡をつけて覗いて見ると毎回ちゃんと俺が居る所の反対側から出て行くのだ。 1日中のんびりと見ていると、まりさは何度も餌や水を運び、甲斐甲斐しく動けないれいむの世話をしていた。 どうやらこの2匹、つがいになったのが今年なら、子供が出来るのも初めてらしい。 大工道具の整備も終わり、やる事も無くなった俺は出て行くでもなく真上の部屋でゆっくりの会話を聞いて時間を潰していた。 これが意外と面白い。 人間でも同意できる事、突拍子も無い事。 ゆっくりの餡子脳とは言えそれなりの考えはあるらしいが、大抵間が抜けているものばかりで下手な笑い話より笑いをこらえるのに我慢しなきゃならん。 「あかちゃんはやくおおきくなるといいね!」 「そうだね! ゆっくりしないではやくあいたいね!」 「れいむあかちゃんにおうたうたってあげるよ! ゆ~ゆゆ~♪ ゆっゆ~ゆ~ゆ~♪」 そうしているうちに、調子外れな歌まで歌いだした。 こいつら隠れているって自覚はあるんだろうか。 それともお決まりの「ここはわたしたちのおうちだよ!」なのだろうか。 ふむ、それだと困るな。 生まれるまでは待ってやると決めたものの、味を占めてこれからずっと住み着くというのはさすがに困る。 俺がそのつもりでも、向こうがどう思っているかは判らない。 ……判るかどうかはさておき、一度話くらいはしてみるか。 俺は部屋の畳を移動させると、真上の床板を一気に捲りあげる。 頭上からの音に警戒していたのだろう2匹と真正面から見詰め合う形になった。 しばらく呆然としていた2匹だが、思い出したようにまりさが俺かられいむを守るようにその前に移動した。 「お、おじさんだれ!? ここはまりさとれいむのおうちだよ! はやくここからでていってね!!」 おお、これだこれだ。 なるほど、実際に面と向かって言われてみれば確かに腹が立つな。 しかしまぁ、判ってて住み着かせてやっていたのは俺だから、ある意味仕方ないといえば仕方ないか。 「あのな、お前そうは言うが、上に俺が住んでいるって分かってはいたんだろ? 毎回律儀に俺の足が出てない方から外に行ってたよな?」 その俺の言葉に、まさか見つかっているとは思ってもいなかったのだろう、2匹の顔が一気に青ざめる。 あんだけ普通にしゃべったりしてて見つかっていないと思うとか、やっぱりおっそろしく緩い頭だなこいつら。 「で、でもまりさたちがきたときここにはだれもいなかったよ! おじさんじゃこんなせまいところはすめないからやっぱりここはわたしたちのおうちだよ!!」 子供を守ろうにも蔓があるため動けず、震えるだけのれいむの前に立ちながら、まりさが必死に自分の居場所を主張する。 なんだ、ゆっくりにしちゃマトモな感じじゃないか。 だがゆっくりよ、お前らには判らんだろうがそこには基礎や上まで通った柱があってだな、それも含めて「家」っていうんだ。 だからそこの空間の事を「床下」って言うんだぜ? おっと、それは置いておいてだ。 れいむの方よ、そんなに震えてたら蔦が折れるか子供が落っこちちまうぞ。 そもそもだ。 「あのな、話をちゃんと聞け。俺はお前らを追い出しに来た訳じゃないんだ」 「ゆ! にんげんはしんようしちゃいけないっておかあさんがいってたよ! どうでもいいからゆっくりどこかにいってよね! まりさたちのこどもにはてをださないでね!!」 しかし俺の言葉にまりさはまるで耳を貸さない。 これも子を守る親の愛情って奴かね。 まぁそれも命の瀬戸際まで追い込んでやればあっさりと裏切るって言うが。 とはいえ、それは俺がやりたい事じゃあない。 それに信用できないとか言うなら、その人間と思いっきり生息圏が重なる場所に住むなよ、その、とにかく色々危ないじゃねぇか。 「だから、そいつの話だってんだ。子供が居るのに追い出すなんて俺ぁしねぇよ。俺は、お互いがここで暮らすための約束の話をしに来たんだよ」 下はともかく、上は人間がいる場所だという認識はあるらしいので、これはれっきとした共同生活だ。 俺はゆっくりにも分かる様に時間をかけてなるべく丁寧に説明してやる。 ひとつ、床下は少なくとも子供がちゃんと生まれるまでは使わせてやる。ただし、上の家には絶対に上がらない事。 ふたつ、子供が生まれた後も育つまでは様子を見て待ってもいいが、住み続けるのはやめてもらう。 みっつ、喋る位は構わんが、むやみやたらと騒ぐな。特に夜。 よっつ、虫や野生の動物が寄ってこられても困るから、できる範囲でいいしゴミを散らかすな。 「もし破ったら……そうだな、お前らを殺したりはしないが、1回破るごとにお前らの頬を1つまみずつちぎりとって、ついでにその頭の子供も1匹もぎ取る」 やはり子供は大事なようだ、その言葉に2匹は震え上がりながら必死で頷く。 さて、これじゃああいつらに押し付けばかりだ。 約束とはお互いがするものだから、俺からもその分何かをせねばなるまい。 その代わり、お前達が約束を守る限り、絶対に子供やお前達を痛めつけたりも追い出したりもしないし、俺が家に居るときくらいは守ってやる。 俺自身もその事を約束して、床板をそっと元に戻していった。 これで上手くいけばいいんだがな。 ゆっくり相手に理性的な話はどこまで通じるんだろうか。 とりあえず、不安ばかりだ。 それからしばらくはやはり忙しくゆっくりに気を回す余裕などなかったが、ゆっくり達はちゃんと約束を守っていた。 そもそも戸締りをしている事もあって家の中には入られなかったし、夜は夜で俺よりも早く眠りについている。 不安定な樹上に子供が居るからか盛ることも無かったし、餌も昆虫や植物など口に入りきるものがほとんどなので、口移しで綺麗に食わせられるようだ。 あまりしっかりと見る機会も無かったが、8匹の子供はゆっくりと、だがしっかりと大きくなっているようだった。 それなら、いい。 たまに俺が覗いたりするものの、それ以外はほとんど干渉する機会も無く、それでも上手く生活できていた。 だが、ある日からまりさの姿を見かけなくなった。 どうにもおかしいと気がついたのはこれまたしばらく雨が降り続いた日だ。 床下を暇つぶしに覗いてみると、れいむだけしかいなかった。 体が濡れるとふやけて崩れてしまう恐れのあるゆっくりは、雨の時はまず外に出たりはしない。 また畳と床板を剥がして話を聞いてやると、一昨日の夕方に餌を採りに行ったまま戻ってきていないと言う。 「案外お前よりかわいいゆっくりを見つけて一緒にどっか行ったんじゃねぇの?」 「ま、まりさはそんなことしないよ! いままでずっといっしょにいきてきたんだもん!! そ、それにあかちゃんだってはじめてなのに!!!」 冗談めかして言ったつもりだったんだが、えらい剣幕で怒られた。 おいおい、これじゃなんか俺が悪役じゃねぇか。 餌はどうしたと聞くと、「食べてない」 蓄えも、約束を律儀に守ってか単にまだ夏だからか判らないが、準備していないらしい。 しまったな。 雨が続いた時の事を完全に失念していた。 「雨が降り始めたのも……一昨日の夜くらいだったな。もしかしたら戻ってくるのが間に合わなくてずっと雨宿りしてるだけかもしれねぇしさ、ゆっくり待ってろよ、な?」 そうは言ってみるが、まるでれいむの表情は晴れない。 もしもいぬとかれみりゃとかにあってたらどうしよう、れいむのごはんさがすのひっしになっちゃってあめにぬれてたらどうしようなどとと喚くばかりだ。 とりあえず明日も雨が降るようなら朝から、止んだら仕事から戻ったあと探してやる。 正直早く寝たかったので、静かになるようそれだけ言って俺はまた床を元に戻した。 ……悪いな、今日の夜で雨は止むよ。 天気が仕事に関わる以上、こういう事には自然と聡くなる。 それに、だ。2日とはいえ戻ってこない時点で普通は覚悟はしとかなきゃならないもんだろうが。 案の定その日の朝には雨は止んでいた。 久しぶりの仕事だ、俺にだって生活はある。 それに、ゆっくり達の面倒まで見てやるとまでは言っていない。 仮にまりさがなんらかの理由により死んでいたとしても、それは野生に生きている以上仕方の無い事だ。 むしろ、森より安全な人間の所に住めている事、その人間にたまたま殺されない事、それが既に幸運であるというのをこいつは理解しないといけない。 野性のもの、違うものとはお互い不必要に干渉し合わない、それが俺の生きていく中でのルールだ。 だから俺は、お前らの事よりも俺の暮らしのために仕事に行く。 ……それの何が悪いんだ。 何故朝っぱらからこんな憂鬱な気分にならねばならないのか。 その日はただ仕事に行った、それだけだったように思う。 いつもより若干急ぎで戻った俺は、家に入るよりも先に床下を覗く。 こちらを見ているれいむと目が合った。 まだ、戻ってきていない。 どうすんだよ。 飼ってる訳じゃねぇし。 片親が死ぬなんざ、よくある話だろ。 そんで残った方も死んじまうったってしょうがないさ、餌が無いんだから。 ……ああ、しょうがねえよなぁ。 荷物を玄関に投げ捨てると、俺はそのまま適当に走り出した。 ゆっくりの餌場なんざ知る訳が無い。 だから、手当たり次第に走る。 それしかできない。 だが、明かりを持ってこなかった俺は、日が沈みはじめ、辺りが暗闇に包まれだした時点で戻る事しかできなかった。 れみりゃ程度ならどうでもいいが、妖怪や野犬の群れに襲われたら俺の方が危ない。 家に戻った時にはもう完全に日は落ち、床下を覗いてもはっきりとは見えない。 しかし、何の声もしない時点で結果は明白だ。 俺とすれ違いで帰ってくるなんて、世の中そんなに上手い話が早々あるはずが無い。 俺だって探したんだ。 仕方、ねぇだろ。 今日何度目だろうか。 自分でも分かる、明らかに力の篭っていない声が漏れた。 そのまま部屋に戻ると床板を上げる。 れいむと目が合う。 俺は何も言わずにれいむをそっと抱き上げた。 頭の上の蔦は多少細くなっているが、まだ大丈夫そうだ。 だが、こいつはそれ以上に痩せて乾いている。 とりあえずあの部屋には置いておけないので、隣の部屋に移り座布団の上にそっとおろしてやる。 「……この部屋だけなら使わせてやるよ。戸締りも出来るから安全だし、飯も仕事ある日は朝と夜だけになっちまうけど俺がちゃんと食わせてやるし、な?」 「う……う、う、う゛…………い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!」 俺のその言葉で、ようやく現実を受けいれざるを得なくなったのだろう、れいむが泣き出した。 居なくなった日も、その次の日も、昨日も、今まで一度も泣かなかった分全てが一気にあふれ出たように泣き続ける。 「どうじで!? なんでまりざがぞんなひどいめにあうの!? ちゃんとやぐぞぐだっでまもっで、まりざ、やざじぐで、がじごぐで!! ぜっがぐ、れいむどあがぢゃん、やだ、そんなのやだ!!! おじざんどうじで!? みんななんにもわるいごどじでないのに!!! はじめでの、あがぢゃん、まだみでないのに!!!! なんで!? どうじで!? おじざん、れいむこんなのやだよお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!!!!」 悲壮で、あんまりにも悲痛だ。 犬猫やら鳥だのだって家族を亡くした時にそういう行動をする事はあるが、なまじっか人語なだけに余計強烈だ。 畜生、何だよ、俺が悪いのか。 ハナっから俺が家に上げてやりゃ良かったってのかよ。 ひたすらに責められているような気がして、俺はその部屋を飛び出して自分の部屋に戻るなり酒を煽った。 今更飯を食う気にもなれねぇし、のんびり風呂に入る気にもならねぇ。 耳をふさごうがどこに居ようが、この声が聞こえない場所はこの家には無いだろう。 なにより、胸糞悪さで今日は素面ではいられそうもなかったのだ。 「……おじさん! おじさん、おきてね!!!」 それからどれほど経ったのだろうか。 酒を散々煽りようやくうとうとし始めた俺は、れいむの切羽詰った声に意識を呼び戻された。 泣きつかれたら腹でも減ったのだろうかと、どこか刺々しい感情で思う。 襖を開けると、あれからどれだけ泣いたのだろうか、顔はふやけ、座布団からも滴るほどの涙を流したれいむがそこに居た。 「おじさん、そこのまどをあけてね! おねがいだからはやくあけてよね!!!」 一体こんな時間になんだって言うんだ。 いっそれみりゃに食ってもらいたいとかそういうんじゃねぇだろうな。 別に開けるくらいいいけどよ、と、開け放った外には夜の闇が広がっている。 時計を見ると時間はちょうど日付が変わったところだ。 「まりさーーーーーっ!!! ま・り・さあああ あ あ あ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 突然。 れいむが大声を上げた。 先ほどの泣き声よりも、大きかったかもしれない。 頭の蔓がびりびりと震えて落ちそうになるほどの、体全体で発する声。 「おい、止めろ、せっかくの子供まで落ちちまうぞ!」 食事もずっと取らず、先ほどまでひたすら泣いていたこの生き物の、どこからこれだけの力がやってくるのだろう。 急速に酔いが醒めていく心のどこかでそんな場違いな事を思いつつ、慌てて静止するがれいむは叫ぶのをやめようとしない。 こいつなりの、別れの儀式のつもりだろうか。 それとも、こいつは何かを感じているのだろうか。 俺には何も見えない。 何も聞こえない。 何も、分からない。 れいむはひたすら叫び続ける。 俺は止める事を諦め、ただれいむと外とを見つめ続ける。 「まりさー! まりさ!! まーりーさーーーーー!!!」 その時だ。 れいむの声質が変わる。 叫びから、呼びかけへと。 そして、俺の目にも。 暗闇の中、ぼんやりと動く何か。 れいむの声に押されるようにして俺は走り出す。 近づいていくにつれて少しずつ浮かび上がる、白いリボンを巻いた黒の帽子のシルエット。 泥やらなにやらでぐちゃぐちゃに汚れ、さらに濡れたせいか三角の形も保っておらず所々破れているが、まりさ種の帽子に間違いない。 生きていたのか。 ……生きていてくれたのか! だが、その動きは普段の大きく跳ねるものではなく、ずるずると、地べたを這いずる弱々しい動きだ。 「よーしよしよし、よく帰ってきたなぁ!」 思わず俺の声も弾む。 だが、近づくにつれ判別できてくる様子を見て俺は息を呑んだ。 なんだこりゃあ。 まりさの全身は何かに引きちぎられたような傷だらけになっていた。 そのうちいくつかの場所は、はっきりと中身が露出してしまっている。 その中身の餡子も雨に濡れたのかどろどろになり、こうしている間にもじわじわと流れ出ていく。 這いずるようにして戻ってきたためか底も石と傷だらけで、その様子は皮というよりはまるで石畳のようだ。 ……ああ、でも。 そうまでして、それでも帰ってきたかったのか。 ……そうだな、家族がいるからな。 ここには、お前の帰る場所があるものな。 「れぇむ、あかちゃん、まりさ、もうすぐ、かえるからね…………」 もういい、喋るな。 動かなくてもいいよ。 俺が連れて行ってやるから。 連れて帰ってやるからな。 俺は上着を脱ぐと、これ以上動かして負担をかけぬように、その中に包み込むようにしてまりさを抱きかかえる。 家に飛び込むと、座布団を並べて重ねた隙間に顔を下にして置く。 邪魔だから帽子も取りたいのだが、なんか頭の飾りはあんまり取っちゃいかんとかだったか、面倒な話だ。 苦しいかも知らんが、顔が一番損傷が少ないから我慢してくれ。 動けないれいむが何かを聞いてくるが、済まんけど後だ後。 石を取るか傷を塞ぐかで迷うが、石の部分はとりあえずは固まっている。 塞ぐのが先だ。 台所に駆け込み、小麦粉を練り始める。 まりさ種は大福だとか言う話を聞いた覚えはあるが、そうだとしてももち米をのんびりやってる暇は無い。 取り合えず餡子が流れるのを止めるのが先だ。 逸る気持ちを抑えてしっかりと小麦粉を練り上げると、それを急いでまりさの傷の上に貼り付けていく。 目立つ大きな傷を粗方埋め終えると、次は石の除去だ。 一応大工をやってる身だ、細かい事や手先の感覚やらには自信がある。 箸と細い鑿を使い、丁寧に、できるだけ素早く石を取り、また小麦粉で埋めていく。 石に触れるたびに痛むのか「ゆっ、ゆ……」と僅かにうめくが、それも弱々しいものだ。 そして全ての傷を埋め終わると、湯で温めた布巾をよく絞り、包帯代わりに巻きつけてやる。 全ての作業が終わったのは、夏の太陽が空を白く染め始めた頃だった。 そこまで終えてから、ようやく俺はれいむをまりさの所へ連れて行ってやった。 布でぐるぐる巻きのまりさを見たれいむは、最初はそのあまりにひどい様子に絶句したもののとりあえず生きていた喜びに涙した。 だが、俺が傷の状況を伝えると、今度は悲しみに涙する。 やはり、無駄にしぶといらしいゆっくりでもアレは相当酷い状態らしい。 とりあえずまた泣き続けるれいむを宥め、砂糖水でいいから飲ませてあげて欲しいと言うのでその通りにしてやった。 僅かではあるが、飲んでくれただけの事に俺はやけにほっとした。 それかられいむは、自分がこのまま見ていると言ったが、子供に障るといけないとなんとか説き伏せた。 自分の空腹に、れいむにも食事を与えていない事を思い出し、ふやかした煎餅と砂糖水を与えたが、疲労からかれいむはそれを食べきる前に眠ってしまった。 自分の部屋に戻った俺は、朝焼けの空を見ながら適当な菓子を摘む。 酒に焼けた胃が痛い。 仕事はあるだろうが、ろくに眠れていないこの状態ではまともに働けそうもない。 棟梁になんと言って休みをもらおうか。 襖に寄りかかりながら、れいむと同じように俺は眠りに落ちていった。 「……じさん、おじさん……!」 誰かから呼ばれている。 誰だよ。 俺はまだ20代だってのにおじさんはねぇだろ。 それに俺はゆっくりの所為で徹夜しちまってまだ眠いんだよ。 ……………………ん? ゆっくり? そういや仕事は? そこまで思い浮かべて唐突に覚醒する。 仕事! ゆっくり! 棟梁!! 目覚めて見る風景はもう夕暮れだ。 仕事は……まずいな。 とっくに今日の分は終わっているだろう。 もうどうしようもない。 そっちは後で何とかするとして、とりあえずはゆっくりだ。 俺を叩き起こした張本人はまだ俺の名前を呼び続けている。 「あんまり騒ぐんじゃねぇよ、まりさがゆっくりできないだろ」 ゆっくりと違って分別ある俺は、一応声を潜めて注意しながらそっと部屋に入る。 「おそいよおじさん! れいむおなかへったからずっとよんでたのに!!」 ……あ、そ。 今朝のアレはなんだったんだ、一体。 喉元過ぎればとかいう短絡的な頭の出来なのか、こいつらは。 ……それはいい、まりさだまりさ。 包帯団子のような有様(やったのは俺だけどよ)のまりさを見てみる。 まだ意識を取り戻してはいないようだ。 今朝の状態とまったく変わらぬまま静かに眼を閉じている。 本気でぴくりとも動いていない。 気になってそっと触ってみる。 心臓の鼓動が伝わってこない。 そっか。 そりゃ動かなくてもしょうがないな。 ………………おい、待てよ。 待て待て待て待て。 せっかく連れて帰ってきたってのにあっけなく終わりかよ。 いや、それよりもだ、この事を隣のれいむに知られたらまたまずい事になるぞ。 どうする、どうしようか。 とりあえず傷の治療とか言って持ち出して捨てるか? それとも別の部屋に分けてだな、忘れるまで待ってみるとか。 いやいや、いっそ2匹仲良くしてもらうためにだな、れいむの方も殺っちまうか!? どんどん危ない思考にはまり込んで行く俺。 ……ん? そういやこいつらって心臓あんのか?? 餡子だのしか入ってない生き物?に心臓??? ?????????? そうだ、ちょうどいい所に見本があるじゃないか。 隣のれいむをちょっと観察。 ん、無視して飯持ってこないからかなんか膨れてるな。 これで一応怒ってるつもりなんだろうか。 おもむろにその膨れた頬に触ってみる。 …………そのままじっとする事しばし。 まるきり反応無し。 うん、人間だったら死んでるな。 と言う事は別に心音が無くても大丈夫って事か。 れいむに念のために聞いてみる。 「あのよ、聞きたいんだがお前ら体の中に心臓とかってあんのか?」 「ゆ? しんぞうってなに? おじさんしらないの? れいむのなかみはぜーんぶおいしいあんこだよ!」 …………へー。 そうなんだ。 いや、餡子が入ってるのは知ってたがな。 ほー。 ……待て、なんかそれっておかしく、いや、やめよう。 そもそも餡子しか入ってないくせに人語を解し、あまつさえ頭から蔦が生えて増えるような非常識な生き物?なんだ。 まじめに考えるだけ馬鹿馬鹿しいだろ。 それによく見てみると生きている証か、かすかに、非常にゆっくりと膨らんだり縮んだりしている。 ……呼吸、だよな。 心臓は無いし餡子だけなのに呼吸はする……だから止めだって、考えるのは止めると決めた所だろ。 とりあえず飯だ、飯。 こいつも俺も腹が減った。 そんで、それからまたまりさの手当てをしてやろう。 それから、とりあえずは棟梁に謝って…………これが一番の難題だな。さて、どうするか。 考えすぎだか寝不足だかで、まだどこかぼーっとしている頭の中で俺はこれからの予定を考えてみた。 しまった。 そんな矢先、いきなり壁にぶち当たった。 予定では、今日の帰りにでも食材を買いに行くつもりだったが、生憎寝ちまったので何も無い。 しょうがないので干物や漬物などで我慢だ。 れいむはまた菓子類、まりさには砂糖水で我慢してもらおう。 れいむは動くたびに蔦が揺れるのが危なっかしいので、直に口の中に入れてやる。 まりさの方はまだ意識は無いようだが、砂糖水をゆっくりと口元に注いでやると少しずつ減っていく。 昨日は飲んでいるのだと思ったが、よくよく考えると飲んでいるのか皮にしみこんでいるのか判らんな、これは。 だが、れいむは特に何も言わず、むしろ感謝の意を示しているのでこれでいいのだろう。 ゆっくりと時間をかけて今日最初にしていきなり最後のマトモな食事を済ませる。 はぁ、なんかすっきりしないぜ。 れいむの方はとりあえずの空腹が癒されたので満足したらしく、やたらつやつやしている。 回復早いな、こいつ。 まりさは……今の状態だとよく判らんな。 そして、食器の片付けついでにまた小麦粉やらタオルを持ってくる。 昨日巻いた布ごと皮がはがれないように、一旦濡らしたタオルを当てた後慎重に剥がしていく。 剥がし終わった後に出てきたのは、やっぱり傷だらけの大福。 小麦粉も、大半が乾いててぼろぼろ崩れ落ちていったが、端の方はなじんでいるのかくっついたままだ。 ……これならなんとかなるかもしれねぇな。 傷がくっつくって事は、まだ治しにかかるだけの体力やら生命力があるってことだ。 治療に役立つ事が他に何かあるかと聞くと、餡子があれば大丈夫だとさ。 ……饅頭が餡子をとか、いいのかそれは……よし、考えるのは止めだよな、俺。 一応の手当てを終え、まりさの状態が大丈夫そうなのを確認すると、俺は出かける用意を始めた。 「お、おじさんどこいくの!? れいむたちをおいてかないでね!!」 普段なら引き止めるどころか、これ見よがしに出て行けだの自分の家だの言うのだろうが、さすがにこの状況では俺が命綱だと言うことは理解しているらしい。 放置されれば死ぬしかないれいむが慌てて俺を呼び止める。 「大丈夫だって。お前達の面倒見れるようにするためにやらなきゃならん事を片付けてくるだけだ」 俺は適当に答えて目的地に向かうことにした。 とは言うものの、置いていくつもりは無いのだが、帰ってこれなくはなるかもしれん。 ……さて、棟梁になんて言い訳すりゃしようか。 殴り倒されるくらいは覚悟してるが、動けるくらいで済めばいいんだが。 結局そんな事ばっかでマトモな言い訳も思いつかぬままに、俺は棟梁の家に着いてしまった。 ……さてどうしたもんか。 家に通されたはいいが、正直何も思いつかなかった。 親父が死ぬ前から面倒を見てもらっている相手だ、今も昔も頭が上がらん通り越して恐怖の対象だぜ。 ……結論だけ言おう。 休みは10日ほどもらえた。 事情は言えないが休みをくれと正面突破を図ったらば、散々説教と鉄拳の嵐を浴びせられて倒れた所に次は蹴りの嵐。 それで腕を痛めたと見るや、腕を怪我するようなヘボは治るまで来るんじゃねぇだとさ。 幾らまだ現場組だからって、あのジジィどんだけ元気なんだよ。 だが、過程はどうあれ理由も聞かずに休みをくれたことは感謝だ。 こうして、俺とゆっくり達との本格的な同居生活が始まった。 続く 作・話の長い人 ジジィかっこよすぎるだろ・・・jk -- 名無しさん (2009-03-10 09 03 23) なぜか棟梁の愛を感じた -- 名無しさん (2010-06-08 23 27 07) これだから体育会系はいやなんだ・・・ -- 名無しさん (2010-11-28 02 10 45) ゆっくりは結構かわいいのに棟梁だけうざい -- 名無しさん (2011-09-02 00 58 21) 棟梁いい人すぎる -- 名無しさん (2011-09-16 23 46 14) そりゃ理由も言わなかったからしょうがない。他のやつに示しつかないし理由作るしかないじゃない -- 名無しさん (2012-02-28 20 07 43) じーさんテライケメン -- 名無しさん (2012-12-12 17 45 19) 名前 コメント
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唯「出番だよ」和「はい!!」 -63点和ちゃん- キーンコーンカーンコーン さわ子「日直の人は黒板お願いね」 ワイワイガヤガヤ ワイワイガヤガヤ 二限目の授業が終わりました いつもの私なら授業後半になるとウトウトし始め 終了のチャイムの音に叩き起こされます ですが今日の私はちゃんと起きてました 唯「はあ」 テストが返ってきたのです 律「唯ー」 唯「りっちゃん」 律「テストどうだった」 唯「やばいよ…憂に八つ裂きにされる・・・」 澪「そんなに悪かったのか?」 紬「レッドゾーン突入?」 唯「赤ペン先生はギリ大丈夫だったんだけど」 ピラッ 律「32点!だっせえええええええええええええええええ」 唯「やあん!大きい声で言わないで」 律「悪い悪い、私のも見せてやるから」 ピラッ 唯「54点・・・りっちゃんだってそんなに良くないじゃん!」 律「半分取れれば上等ですー」 澪「いや上等じゃないだろ」 唯「澪ちゃんとムギちゃんはどうだったの?」 澪「私か?ほら」ピラッ 紬「はい」ピラッ 唯「うわ…」 律「私と唯の点数合わせても勝てない・・・」 唯「なんでそんなに頭いいの!」 澪「頭いいっていうか、授業聞いてノートとって予習復習してれば 大体このくらいとれるだろ」 律「聞きました?余裕かましちゃって…」 唯「やーねぇ」 紬「ねー」 澪「ムギはこっちだろ」 紬「あうう」 和「軽音部みんなで集まって、テストの話?」 唯「和ちゃん」 幼稚園に通う時期から今のいままでずっと親友を続ける 真鍋和ちゃんです なんと生徒会長を務めているのだから驚きです 律「和はテスト何点だった?」 和「んー?はい」 ピラッ 唯「63点」 律「あはは私とそんな変わんないな」 和「いいのよ、こんなの半分も取れれば十分じゃない」 紬「和ちゃんりっちゃんと同じこと言ったー」 澪「生徒会長・・・」 こんなこと言うのは良くありませんが 和ちゃんは確かに生徒会長です しかしそんなに頭がいいと言う訳ではありません いえ、生徒会長だから頭もいいというのは私の勝手な独断なのですが 一般的にはそうなんじゃないでしょうか 和「澪、この公式の解き方教えて欲しいのだけれど」 澪「ああそれは」 和ちゃんは分からなかったところや間違った問題は 必ず自分が納得いくまで挑戦します 澪「ってなるんだ」 和「なるほど…ありがとう澪、助かったわ」 澪「いやいや」ニコッ 和ちゃんはお礼を言って微笑みます 澪ちゃんも嬉しそうに笑顔になります 先生「真鍋、解いてみろ」 和「y=152です」 先生「残念、y=3だ」 和「おしい」 和「"ブレークファースト"ってスペルどう書くんだっけ?」 唯「こうだよ」 澪「違うこうだ」 私も人のことはいえません 瀧エリ「和っ」トス 和「ファイア!」レシーブ ダァン わーわー 和ちゃんはどちらかというと運動の方が得意です 昔から憂も入れた三人で缶蹴りや鬼ごっこをしていたものでした 小学生低学年のときの縄跳び運動で一番初めに二重跳びができるように なったのも和ちゃんだった気がします そのうち妹の憂でさえ出来る歳になったのに私は結局小学校を卒業するまでに 会得することはできませんでした 今なら出来ますよ?そりゃあ高校生ですもん出来ますって・・・・多分 律「唯来るぞ!」 唯「えっ」 ダァン 唯「へぶっ」ドタッ 律「唯!大丈夫か」 唯「いたた・・・」 信代「ごめん!当てるつもりはなかったんだけど」タッタッタ 和「起きられる?」 唯「平気だよ、どこも痛くない タラー 唯「あ」 瀧エリ「鼻血」 澪「貧血」スー 紬「キャッチ、澪ちゃんはこっち来てようね」ズルズル 和「だれかティッシュ持ってないかしら」 信代「ええと・・・」 瀧エリ「誰かティッシュ持ってないかってー」 スッ いちご「・・・ティッシュ」 和「使っていいの?」 いちご「うん」 和「ありがとういちご」 唯「いちごちゃんありがとー」ふがふが 和「動かないで唯」 唯「うあい」 瀧エリ「苺がプリントされた香りつきティッシュ・・・」 律「ぶふっwwwww」 いちご「・・・・」ギリギリギリギリ 律「いいいいいちごしゃんやだなあ冗談ですって」ガクガク 信代「ホントごめんな唯」 唯「いいっていいってー」 信代「・・・」 ドサッ 律「こひゅーこひゅー」 いちご「・・・食べてもおいしいのよ」 和「そうなの?私いっちゃおうかしら」 唯「え、和ちゃん」 パクッ もぐもぐモグモグ いちご「・・・・冗談だったんだけど」 和「オエーのAA」 クラス「あはははははは」 唯「和ちゃんってば、普通やらないよー」あははは いちご「クスッ」 和「よし、じゃあチーム替えしてもう1ゲームしましょ」 クラス「おー」 和「エリ、いちご、一緒に暴れましょ」 瀧エリ「がってん!」 いちご「御意」 唯「信代ちゃーん」タッタッタ 信代「?」 唯「チーム組もうよ!」 信代「えっ・・・でも」 唯「あんなレシーブ打てるなんて凄いね! 信代ちゃんがいてくれれば百人力だよ!」 唯「ねっ?」 信代「・・・・うん!」 律「こひゅーこひゅー」 紬「よいしょよいしょ」ズルズル 和ちゃん、クラスのみんなありがとう ~ 和「というわけで三年二組はロミオとジュリエットのお芝居を することに決まりました」 クラス「わいわいわいわい」 澪「私がロミオ・・・私が」ブツブツ 和ちゃんはクラス委員長でもあります こういった議論を行うときは進んで司会を務め、 話を進行させてくれます 和「セットを作る係になってる人は放課後残って期間内に完成させるように」 和「30分くらいでいいわ、部活に支障は出ないようにするから」 =放課後= わいわい わいわい 唯「がんばってるね和ちゃん」 和「唯」 唯「台本だってまだ出来てないのに、今日からじゃなくても」 和「こういう裏方の作業はゆっくりでも早めに始めないとね」 唯「しっかりしてるね、さすがは生徒会長だよ」 和「もう」 和「唯は演出する側なんだから残らなくていいのよ?」 唯「木Gだよ!」 和「はいはい」 唯「じゃあね和ちゃん部室行ってくるよ」 和「うんまたね」 和ちゃんは今回の出し物でも幹事を務めてくれました それはみんなが和ちゃんを信頼しているからです 和ちゃんにはリーダーシップというか そういったカリスマ性があるのでしょう なぜだか私まで嬉しくなってしまいます 唯「~♪」 女子1「早く帰りたいなあ」 女子2「なんでこんな面倒くさいことやらせるのかしら」 だからといってみんながみんな和ちゃんを 好いてくれているわけではありません 決して嫌いという訳じゃないと思いますが良く思っていない 人は必ずやいるでしょう 女子1「大体なんで真鍋さんって生徒会長なの?」 女子2「頭だってそんなに良くないよね」 唯「むっ」 支持率100%なんて数値この世には存在しないのです 唯「ねえ-- 和「あなたたち」 女子1.2「!」 和「どう?捗ってる?」 和「分からないところがあったら遠慮なく聞いてね」 女子1「あ…これ終わったから」 女子2「こっちも」 和「嘘!?もう完成したの?早いわね」 和「助かるわ女子1、2」 女子2「う、うん」 女子1「別に・・・」 和「今日はもう大丈夫よ、お疲れ様」 女子1.2「・・・・・」 和「ばいばい、また明日」 ですが、和ちゃんの場合 和「あともう少しでいいから頑張って」 クラス「「「ブヒぃ!!!」」」 女子1「ねえ」 和「あら?」 女子1「その・・・なにか手伝うよ」 女子2「どうせ帰宅部だし暇だから」 限りなく100%に近いんだと思います ~ =部室= ピーヒャラピーヒャラ ジャカジャン 律「今のはきれいに決まったんじゃないか?」 澪「ああ、ほぼ完璧だ」 梓「ステージでもこの調子で頑張りましょう!」 唯「ふひい疲れた」 紬「唯ちゃん頑張ったもんね、そろそろお茶にしましょう」 唯「うわーい!!!」 梓「うるさっ!」キーン 律「はあ~」 唯「私たちはこのひと時にために生きてたんだね~」 紬「紅茶のおかわりいかが?」 梓「あ、お願いします」 ガチャ 和「失礼するわね」 律「おーう和どうした」 和「講堂の使用許可書」 律「!」 澪「おい!また出し忘れてるんじゃないだろうな」 律「え、ええ?ちょっとまって」ガサガサ 和「期限今日までなんだけど」 律「うわわわわわ」ガサガサ 澪「探せ探せ」あたふた 梓「机の中とか」あたふた 紬「あたふたあたふた!」 澪「ムギ!」 紬「あうぅ」 和「私か渡し忘れてたんだけどね」 律「おい」 ~ 律「えーと曲順が 澪「最初にごはんはおかずで 和「あんまり急がなくていいわよ、今日までっていっても 私が直接持って言ってあげるから」 律「サンキュ」 紬「和ちゃん、紅茶飲まない?」 和「いただくわ」 紬「はーい」 唯「今日はもう作業終わったの?」 和「うん、みんな頑張ってくれるから予定より早く終わりそうよ」 紬「和ちゃんどーぞ」カチャ 和「ありがとうムギ」ニコッ 唯「砂糖いるよね」 和「うん」 ボチャン ボチャン ボチャン 紬(三つ) 梓「和先輩って無糖のイメージがありました」 和「脳が糖分を欲してるのよ」 唯「こうみえて和ちゃんは甘党なのです」 和「てかあんた達お茶飲んでていいの?練習は」 梓「さ、さっきまではしてたんですよ、丁度和先輩が来たとき 休憩してただけで」 和「ふうん」 ズズッ 和「あー」 紬「お口にあうかしら」 和「とってもおいしいわ」 和「確かにこれなら毎日でもいいわね」 唯「でしょ」 律「和、書けたぞ」 和「ん」 澪「間に合ってよかった」 和「ふう」 和「もう少しゆっくりしてていいかしら」 紬「ええ」 唯「和ちゃん疲れてる?」 和「疲れてるわけじゃないけど、気分転換っていうか リフレッシュしたいかな」 和「温泉に浸かってカニ食べまくれるツアーにでも行きたいわ」 律「あはは何だそれ」 唯「じゃあさ」 唯「今度の休みの日一緒に遊ぼうよ」 唯「服見に行ったりお昼にご飯食べたり」 律「いいなー私も遊びたい」 唯「ダメっこれはデートなんだから」 唯「ね?和ちゃんいいでしょ」 和「うーん・・・」 私はそんな和ちゃんが大好きです ---63点和ちゃん 唯「おしまいだよ」梓「はい!!」 梓「あ、あれ?」 -‐..  ̄ ̄ ......、、 / / ヽ ヽ、 r'´ / ,イ | jハ; ヽ \ | / /│ | | | ヽ ', | ..', ! l /⌒| //⌒| 从 | | rヘ ノ | / レヘ / V '; | | | .i . ! {从 ∨ r V | / | / リイ三ミ イ三ミ / / / | | ′ , 、 / 「`)イ | | 小、 '-=-' / r'´ | | |∧ | l > .. _ .イ / | | l| V ! |rュr勹 フ /V | | | /ん)´ / /ン勹ぅ- 、│ | | / r')ヘ んr'´ノ´ ヽ | l;' / `⌒´ ( {、 | | / / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽ }! | | 戻る
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純「んっ…ふ…んぁ…///」 ……いつからだっけ 純「あぁん…ぅ……///」 ……あんなにも、憂を意識するようになったのは 純「ひゃぁ…///んぁあ//」 ……憂って、何でもできるもんね。同じ女子としては憧れるよ 純「ぁ…うぃ…憂…///」 ……そんな憂のことが……好きになったのって、いつからだっけ…? ……中学の時から一緒で……気づけば、憂に憧れてて ……今じゃ…一緒にいないと寂しくて寂しくて…… 純「ゃ…いくぅ…いっちゃぁ……///」 ……でも…もうすぐ卒業 ……ずっと一緒にいたいのに ……どうすれば……卒業した後も、一緒にいられるだろう 純「んっ…ぁ…んぁぁぁあああ////」 ビクンッ ……憂が…この気持ちを、理解さえしてくれればなぁ… 純「ん…っ…はぁ…はぁ……」 ……でも、無理かな…… ……学校のトイレで……オナニーしてるぐらいだし…… 純「(はぁ……何やってんだろ…私)」 純「(…なんかむなしい……もう出よっと…)」 ガチャッ 純「(ふぅ…よかった、誰もいなくて)」 純「(帰ろっと……というか、普通に家ですればよかった//)」 スタスタスタ・・・ 梓「………………………」 【帰り道】 純「(はぁ……もしあの声、誰かに聞かれてたらどうしよう)」 純「(まぁでも……ジャズ研の帰りで、大体6時30分ぐらいだったし、大丈夫だよね、たぶん)」 純「(あー疲れたらお腹すいちゃった。 走って早く帰ろ……)」 【次の日】 【昼休み】 憂「ねー純ちゃん、化学の課題、どう?進んでる?」 純「いや~、まだ全然だよ……実験の考察を書けって言われても…適当に本とかから探した資料をもとに自分の意見で書け、だなんて……きついって…」 憂「でも、そういうのが大事なんだと思うよー?」 純「うん…それは分かってるんだけど…どうも書き始められなくてね~」 純「梓は?どう?」 梓「………………………」 純「…………梓ぁー?」 梓「…………………ぇ……え?ご、ごめん、なんか言った?」 純「だからー、化学の課題、進んでるー?」 梓「え……あ、あぁ、もう終わったよ」 純「ぅえ!?ほんと?」 梓「うん」 純「………憂………は?」 憂「あはは……私も……終わってる…よ?」 純「ガーン!」 憂「……ま、まぁ、じ、純ちゃんなら大丈夫だよ!」 純「ぅ……そんなひきつったように言われても……ぅう…」 梓「んー、まぁ純でも、頑張ればあれくらいすんなりいけちゃうと思うけど」 純「そうすんなりいくなら問題ないんだけどね…」 憂「ぁ…ごめんね、私、ちょっとトイレに…」 純「んー、わかったー」 スタスタスタ・・・ 純「はぁ~……今日中に頑張って終わらせておかなきゃなぁ…」 梓「………………………………」 純「……………梓……………?」 梓「…………あのさ、純…………」 純「………?何?」 梓「ぁー………いや、何でもないや。ごめん。」 純「……………………?」 【ジャズ研へ向かう途中】 はぁ…………今日も憂、かわいかったなぁ……// ……………はぁ………………せめて気持ちぐらいだけでも…………伝えてみようかな…… 純「(いやいやでも、私が女の子好きだって知ったら、憂に当然嫌われるよね)」 ………………ふぅ…………やっぱり、この気持ちはとどめておくべきかな。 別に憂とは仲が良くて、親友と呼べるくらいだし………いつか……必ず離れてしまう時が来るけど、それまで親友同士として一緒にいられれば。 …………恋人同士じゃなくても、そうならいいかな。 ………………………いつか…………………………… ………………………来ちゃうんだよね………………… ………………………お別れの時が…………………… ………………………必ず……………………………… ………………………必ず……………………………… ギリッ 純「(ジャズ研……行く気しないや……帰ろ……今日自主練だしいいよね)」 トボトボ・・・・・ 【帰り道】 憂「あ!純ちゃん!」 純「え?……あっ、憂!」 タッタッタッ・・・・・ 憂「あれ?純ちゃん、ジャズ研は?」 純「ぇ………あ、うん、今日、休みなんだっ!」アセアセ 憂「へぇ~そっか~」 憂「なんか、こうやって純ちゃんと一緒に帰るの、久しぶりだねっ」 純「ぁ…うん、そうだね//」 純「(うわぁー、なんかそんなこと言われると恥ずかしい……///だめだっ、普段どおり接しなきゃ!)」 純「あぁ、そういえば、この間決まった文化祭の出し物だけどさぁ……」 そうやって、テレを隠しながら、私と憂は自らの家へと向かっていった 純「あ、それじゃあ、私はここで。憂、じゃあね」 憂「あ、うん。純ちゃん、ばいばい!」 ガチャッ 純「ただいま~」 家に帰るやいなや、私は私の部屋のベッドへとうなだれた ドサッ 純「ぅ~……まさかあんなに恥ずかしいだなんて……///」 純「前まではこんなことなかったのに……完全に憂のこと意識してる証拠だよね……///」 純「あ゛ー、いっそ告白しても……憂ならそう簡単に人のこと嫌いになりそうもないしな~」 純「まぁ………そこが……好きなんだけど…//」 【次の日】 【朝】 梓「あ、純。おはよー」 憂「純ちゃん、おはよ~」 純「あ、二人ともおはよ。」 憂「あ!純ちゃん何見てるの?」 うわぁぁ////憂の顔がこんなに近くに……// 純「え、あぁ、これ今朝買ったファッション雑誌だよ」 私、顔赤くなったりしてないかな…ばれたら恥ずかしいし…// 梓「………………………………」 キーン・・・コーン・・・カーン・・・コーン 梓「…ってあっ!席つかなきゃ!」 【放課後】 純「それじゃあ、憂、梓、私ジャズ研行くから。じゃあねー」 憂「うん。ばいばい純ちゃん」 梓「あ、私もけいおん部あるし、そこまでいっしょに行くよ」 純「ん。じゃ、いこっか」 トテトテトテ・・・・ 純「どう?けいおん部は、新入部員入りそう?」 梓「ん~…何とも言えないかな。でも、今度の新入生歓迎会で必ず新入部員を獲得してみせるよ」 純「そっか~大変だねー。私が入ってあげられたらいいんだけどねー。」 梓「それは嬉しいけど…ジャズ研をやめてまでこっちに来ることは無いよ。」 純「ん~まぁね~……」 梓「……………あのさ……………」 純「……………ん?」 梓「……………率直に聞くけどさ……………」 梓「純って…………憂のこと…………好きでしょ……………?」 純「!?!?!?」 梓「(すごい動揺してるし…)」 純「っっなっ…!なにをっ…言って!」 梓「って、純、驚きすぎ!もう少し落ち着いてよ」 純「だって…いきなり梓がそんなこと言いだすから。」 梓「…最近、純って憂のことばかり見てるような気がして…」 純「いや!そ…そんなことはっ!///」 梓「顔赤くなってるよ?」 純「う…///」 梓「ほら。やっぱり…好きなんでしょ?」 純「………でも………私が憂を好きなんて、梓も変だと思うでしょ?」 梓「………別に…変だとは思わないよ?」 純「!?ほんと?」 梓「うん…まぁ…」 純「めずらしい…普通拒絶反応とか示しそうなのに…」 梓「うーん、そんなことはないけど…」 純「もしかして…梓にも好きな人がいるとか?」 梓「えぇ!?いや、そんなことはないけど…//」 純「(あやしい)」 純「って!そんなことより…なんで私が憂を好きだって気づいたの…?」 梓「え?あ、それは…」 梓「(トイレでのことはまだ伏せておこう…)」 梓「なんだか、最近純が憂と話すたびに顔を赤くしてるみたいだし」 純「えっ!(……ばれてたんだ…)」 梓「……純は、どうしようと思ってるの?憂とのこと」 純「え…それはまぁ…いつか告白はするかも…」 梓「そっか…………」 純「梓……?」 梓「ん…」 梓「はぁ……純、私が……」 純「…え?」 梓「私が………背中を押してあげるから…」 梓「諦めないで、純」 純「…え?梓?背中を押すって…」 梓「……協力してあげる。純と…憂のこと」 純「え…ほんと?」 梓「ほんと。それじゃ、私、けいおん部いくから。それじゃあね」 純「ぇ…あ…うん。じゃあ…」 タッタッタッ・・・・ 純「行っちゃった…」 梓「…………………はぁ……………私何やってんだろ………………」 【純の部屋】 ドサッ 純「ふぅ~ベッドはやっぱり気持ちいいなぁ~」 純「(今日の梓……どうしたんだろ)」 純「(背中を押すって言ってたよね……)」 純「(それって……協力してくれるってことだよね……?なんでいきなり……)」 純「(う~ん…)」 純「」 純「」 純「(でもまぁ……梓なら、唯先輩繋がりで私の知らない憂のことを知ってるかもしれないし……いいかな)」 純母「純ー!ごはんー!」 純「あ!今行くー!」 梓が私に協力してくれる…………。 どうなるんだろう、私。 憂と…………付き合えるようになるのかな。 憂……! 憂……! 憂……! 純「ハッ!?」 純「………」 純「………………………え?」 純「夢?」 【第1部】終了 2
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顔の半分を隠す髪は、人に顔を見られないように。 いつも下を向くようにしてるのは、人に顔を見せないようにするため。 女の子になれば、全部忘れられると思った。 女の子になれば……何も、なかったことにできると思っていたんだ。 帰りのHRが終わって、一気に騒がしくなった教室。 ガタガタと席を立つ音やこの後の予定を話し合う人の声が瞬く間に広がって、それに紛れるように僕も立ち上がろうとした時だった。 「なぁ、安岡ちょっといいか?」 「――――え……?」 クラスメイトの北村くんに急に話しかけられたんだ。 二年生に上がってからもうまるまる二ヶ月は経つ。その間ずっとクラスメイトということ以外、何も関わりがなかっただけに、急に話しかけられたことが少しだけ怖い。 「あの……な、に?」 僕よりもずっとずっと大きな体の北村くんからは、それだけで押さえつけられるようなものを感じてしまう。 僕の席は一番廊下側の真ん中。そのせいで席の左側――北村くんがいる所に立たれてしまうと身動きが取れないせいかもしれない。 「ああ、安岡、俺のカットモデルになってくれないか?」 「か……?」 「俺将来美容師になりたくてさ、これでもけっこう練習してんだぜ。でも前のカットモデル頼んでたヤツが事情があってやめちまったんだ。んで、どーすっかなーって思ってたらびっくり。すげー上質の髪を持ってる奴がクラスにいるじゃねーか!」 大きな体を大げさに動かしながら事情を説明する北村くん。だけど僕にはちっともわからないことがあった。 「それって、誰?」 北村くんが言い出したことが本当にわからなくて。 理解しようにも、他のクラスの皆から好奇の目を向けられているこの状況が辛くて、知らないうちに突き放すような言い方をしてしまった。 「あぁ? おまえだよ、お・ま・え! 話の流れで分かれってーの」 途端に不機嫌そうになった声に体が竦む。 「ま、いいか。それよりも頼む! 引き受けてくれ!」 けれどすぐさま真剣なものになった声が、僕の上のほうから降りてくる。 ――……カットモデルってことは……髪をいじられる? だったら、断らないと。 「な? 頼む、いいだろ?」 顔を合わせることなんかできずに下を向いていたから気づいた。北村くんの両手が僕の肩のほうに動いて……。 ――――パシンッ―――― 「あ――――」 ほとんど無意識のうちに、僕は肩へと伸びてきた北村くんの手を叩き落としていた。 叩いてしまった時に思いのほか鋭い音が響いて、北村くんが息を飲んだような気配が伝わってくる。 ――逃げないと……。 その思いに駆られて、机と北村くんの間に無理に体をねじ込ませる。 だけどその動きは北村くんのバランスを崩させてしまったみたいで。 一歩後ずさった北村くんは隣の席の椅子に引っかかって、背中のほうから盛大に倒れこんでしまった。 「っ…てぇ~」 「ぁ………ごめんなさい」 しん、となってしまった教室の中、僕のかすれた声が妙に響く。 そして僕はそれ以上の謝罪も、北村くんを助け起こすことも出来ず、教室から逃げ出してしまったんだ。 次の日の学校、恐る恐る教室を覗き込んだけど北村くんはまだ来てなかった。 そのことにほっとして……安堵の息を漏らしてしまったことに自己嫌悪しながら自分の席に着く。 昨日、かなり最低なことをしてしまったという自覚はある。 人を突き飛ばして転ばせて、しかもろくに謝りもしないまま逃げ出してしまったんだから。 でも……混乱してたんだ。 人を突き飛ばしてしまった経験なんて全くなかったし、ほとんど無関係に近かった人にいきなり話しかけられて…………。 ――ううん、違う。 自分への言い訳を断ち切るように首を振る。 たぶん僕は、認めたくないんだ。まだ、立ち直れてないだなんて認めたくなくて……だから逃げてしまった。 肩と首は違う場所。 そんなこと当たり前のこともわからなくなるほど、まだ人の手があんなに怖いなんて……。 不意に席の横を誰かが通って、思いっきり身体が跳ねる。北村くんが来たのかと身構えたけど違う人だった。 ――……ちゃんと謝らなきゃ。 謝って、そして断らないと。髪を切るつもりはないから、って。 決意してずっと入り口のほうを様子を伺い続ける。 だけど予鈴が鳴っても、一限目が始まっても、いつまでも北村くんは教室に現れないまま、とうとう放課後になってしまった。 どうしたんだろうという疑問と、顔を合わせなくて済んだという安堵と、けれど謝罪が先延ばしになったことへの憂鬱。 色んな感情の中、だけどやっぱり憂鬱を強く感じながら僕は帰り支度に取り掛かる。 「安岡さん、何帰ろうとしてるの?」 「え……?」 声をしたほうを見れば、スカートの端が視界に入る。 「今週、私たち教室の掃除当番でしょ? 昨日安岡さんったら先に帰っちゃうんだから」 はい、と僕の分の箒を差し出されて、今更ながらのことを思い出して、ざっと血の気が引いていく。 「ぁ……の、ごめん、なさい……」 「いーよ。でも今日のごみ捨てはお願いね」 それだけ言って、その子は机を後ろにどかす作業に入っていった。 こういう時に、ここは本当に良いクラスだと思う。 たったそれくらいのことで、昨日のことをまったく追及もせずに済ませてくれた。 皆、どうすれば人が嫌な気持ちになるのかわかってくれてるんだと思う。だから僕みたいなのでも、クラスから極端に浮かずにいられるんだ。 僕とその子と、あと男子三人で掃き掃除を手早く済ませて、四人は思い思いの場所に向かっていった。 残った僕もごみ箱の中身を、校舎裏のごみ置き場に持っていったらそれで仕事はおしまいだ。 あまり入ってない軽いごみ箱を抱えて校舎裏まで行って、でもこの時間はごみ置き場が混むから、思ったよりも時間がかかってしまった。 だけど、それは別にどうでもいいんだ。 ごみを捨てて、ゆっくりと歩いて教室の前まで戻ってきた僕は、教室の中から響いてきた会話に凍りつかされる。 「ね~、私のことカットモデルにしない?」 「その誘いはありがたいけど、もう決めちゃったからな~。ゴメン!」 隣のクラスの女の子の甘えるような声に答えたのは、今日はついに学校に来なかったはずの人。 ――どう…して……? ごみ捨てに行く前はいなかったのに。 「なーんだ、残念!」 言葉とは全然違う、あんまり残念がってない声で女の子は笑ってる。 「悪いな。もう俺あいつにするって決めちゃったから。な!」 な、の所で唐突に北村くんに視線を合わされて、廊下で僕は息を飲んだ。 ――気づかれてた。 そうわかった瞬間、このまま逃げようと身体が動きかけて、だけど足が固まってしまったみたいに動かなくて。 ゆっくりと北村くんが近づいてくるのを、僕はただその場で待ってしまうことになった。 「昨日はドーモ」 妙に優しげな声の北村くんが逆に怖い。 「あ、あのっ……」 「いや~、いきなりあんなこと言い出した俺も悪かったけどさ、まっさか安岡が人を突き飛ばすなんて思ってなかったんだよな~」 「それはっ……」 「でな、間抜けな話、俺さ油断してたせいで受身取り損なって腰痛めたんだわ」 北村くんのその言葉に僕は自分の顔が青くなるのがわかった。 「ま、そういうわけだから。お詫びにカットモデルくらいなってくれるよな?」 北村くんは普通に問いかける口調なのに、僕のほうにやましい所があるせいで脅されてるように感じてしまう。 「なってくれるよな?」 もう一度聞かれて思わず身体が竦んでしまう。自分より大きな人からはどうしても威圧感を感じてしまって、怖い。 耐え切れなくなった僕が頷くと、それまで北村くんから感じてた威圧感がふっと消える。 「サンキュ」 信じられないほど優しい、安心できる声が聞こえて、それに驚いて顔を上げる。だけどすでに北村くんは女の子たちの方を向いていてどんな顔をしてるのかわからなかった。 「じゃ、俺たち帰るから」 「じゃーねー」 「安岡さんのこと、あんまりいじめちゃだめだよ~?」 女の子たちの口々の声に見送られながら、僕は北村くんにつれられて教室を出た。 「あの……どこに…?」 「ん? ああ、俺んち」 学校から歩いて十分と自慢げに話す北村くん。 「北村くんの、家?」 「おう、道具とか全部家に置いてあるからな」 すぐに僕の質問に答えてくれて、だけどそれきり話すことがなくなってしまって、無言で北村くんの後をついていく。 「あの……ごめんなさい」 だけど校門に来たあたりで思い出してそう口にすると、北村くんは不審そうに僕の方を振り向いた。 「なんだ? あ、もしかして今日は他に予定でもあんのか?」 「そうじゃなくて……昨日北村くんのこと転ばせちゃって、しかも怪我までさせちゃって……」 もう一度ごめんなさいと小さくなってしまった声で言うと、なぜか北村くんが息を飲んだような気配が伝わってきた。 「……?」 「あ、いや、別に大したことないから。だからそんな気にすんなよ、なっ?」 焦ったように言う北村くんが不思議だったけど、すぐに許してもらえてほっとした僕だった。 そのやり取りが終わった後、さっきよりもゆっくりと歩く北村くんについて行って、本当に十分くらいで北村くんの家に着いた。 「ここ、って……」 「ああ、駅から近くて便利だろ」 そう、北村くんの家は僕がいつも登下校で使ってる駅の近くだったんだ。 美容師になりたいって北村くんが言ってたからてっきり家が美容院なのかなと思ってたんだけど、北村くんの家は普通の二階建て一軒家だった。 「どうした、上がれよ?」 「…おじゃまします」 一瞬躊躇ったけど、そんなことしてても何にもならないからおとなしく北村くんに従って中に入る。 玄関からまっすぐ入ったリビングに通されて、僕にソファに座るように言って北村くんは隣のキッチンに消えていった。 僕の家よりけっこう広くて、なんだか温かい感じがするリビング。だけどもちろんくつろげるわけなくて、じっと待っているとすぐに北村くんは何かを持って戻ってきた。 「あいよ、お待たせ」 麦茶の入ったグラスを手渡される。 「ありがとう……」 一口飲んで、自分がどれだけ緊張して喉が渇いてたのかやっと自覚した。 ――おいしい。 麦茶のおかげでそれも少し和らいだみたいだ。 「それでカットモデルのことなんだけど…」 本題を切り出されて、身体が硬くなったのが自分でもわかった。 だけど幸い北村くんは気づかなかったみたいで、そのまま言葉を続ける。 「まず髪触ってもいいか?」 「え…?」 「髪が今どんな状態なのか、触ればけっこうわかるもんなんだ。いいか?」 真剣な声。どれだけ北村くんが真面目に美容師を目指してるのか、それだけで伝わってきて、僕は嫌だなんて言えずに頷いた。 すると北村くんはソファに座ってる僕の正面に膝を着いて、向かい合う形になる。 「じゃ、触るぞ」 言葉とほぼ同時に北村くんの指が頭に触れて、大げさに身体が動いてしまった。 「っと、悪い。なんかしちゃったか?」 慌てて聞いてくる北村くんの声に、僕は首を横に振って否定した。 ――大丈夫……。ただ、髪を触られるだけ。 そう自分に言い聞かせる。 「触るぞ?」 さっきよりもゆっくりと僕の頭に指が触れて、今度は僕も拒絶しなかった。 「あー、やっぱ髪やわらかいな~」 横の髪を梳くようにしたり、髪の流れに逆らって撫でてみたり、たまにひと房持ち上げてみたり…。 ――なんか……。 すごく心地いい。 最初はあんなに嫌だと思ってたのに、昨日あんなに僕を怯えさせたこの大きな手が、今はすごく安心できる。 「でも思ってたよりわりと毛先以外は痛んでないな。なんかケアとかしてるのか?」 話してる間も北村くんは手を止めない。 「シャンプーと……リンスだけ」 ぼんやりと答えながら、いつの間にか僕は目を閉じてしまっていた。 「本当にそれだけで、この傷み方で済んでるのか?」 少し驚いたような北村くんの声に目を閉じたまま頷く。 髪のごく表面を触られてるだけなのに、まるで僕自身を撫でられてるように感じてしまって、すごく安心できる。 『この不思議な感じがずっと続いてほしい』 そうさえ思ってしまって、僕は自分のあまりの心境の変化に内心驚いた。 ――…でも、いいや。 今はこの心地の良い状況が続いてるんだから。 「まぁ~、でも……」 突然、北村くんの声が不自然に途切れる。しかも声だけじゃなく手の動きまでも。 不思議に思って目を開けると、目を見開いて僕を見ている北村くんの顔が映る。 ――え……? 景色がさっきまでより明るい? 「あ…ぁ……」 頭が理解するより、身体が勝手に反応してしまう。 『おまえさえ、いなければ…!』 やだ……思い出したくない…っ。 「安岡? おい、どうし…」 「いやだっ!!!」 目一杯の力で抵抗して、目の前にいる人を押しのけて僕は廊下の方に逃げ出す。 ――助けて、たすけて、タスケテ…! 「安岡っ!?」 後ろから誰かが追ってきて手首を掴まれる。どんなに振りほどこうとしても離れなくて、それが恐怖に拍車を掛ける。 「やめて、放してっ!」 息が苦しい。冷や汗が止まらない。 お願いだから、誰か僕を助けて…っ。 「いい加減にしろっ!!!」 とても近くからの怒鳴り声に僕は息を飲んだ。その拍子に抵抗することも忘れてしまう。 「ったく、なんなんだよ」 嫌われる。いらないって言われる。また、見捨てられる…! ぐるぐると頭の中にそれだけが回っていて他に何も考えられない。 ガタガタと身体が震えだして、まだ僕の手首を掴んでる人にもそれが伝わってしまった。 「安岡、おまえどうしたんだよ…?」 考えたくない、絶対に。もうあの事なんて…。 答えない僕に痺れを切らしたのか、目の前の人が忌々しげにため息を吐く。それにさえ身体がビクつく。 「大丈夫だ」 ふっと温かい何かに身体が包まれて、震えが収まっていく。 それが北村くんの腕の中だとわかってからもなぜかすごく安心できて。僕はそこでそのままじっとしていた。 「もう平気か?」 しばらくしてそう聞かれて、頷くと北村くんはゆっくりと僕から腕を外した。 いきなりあんなふうになってしまって居たたまれないのと恥ずかしいのでまともに北村くんを見れない。 「じゃ、続けても平気だな?」 驚いて顔を上げると、北村くんが意外そうに聞いてきた。 「どうした、もう嫌か?」 「…訊かないの?」 僕がこんなふうに錯乱してしまった理由を。 「聞いたら教えてくれるのか?」 ごく普通に聞き返されて、僕は返答に困ってしまった。 北村くんには迷惑を掛けてしまったけれど、出来ればその話をあまりしたくない。 黙ってしまった僕に北村くんは苦笑してこう言ってくれる。 「人には聞かれたくないことの一つや二つ誰にだってあるだろ? 安岡が話したいならいくらでも聞くけど、そうじゃないなら無理に聞くようなマネはしねーよ」 だからこの話は終わりだと言ってくれる北村くんの存在がすごく嬉しかった。 「ま、それに? カットモデルのこと断られてもあれだしな~」 けっこうひどい言い草だったけど、それがただの冗談だって今の僕ならわかる。 「いまさら断らないよ。だけど……」 「わかってる」 最低限の言葉だけで僕が言おうとしてたことを察してくれる北村くん。 『前髪にはあまり触らないで』 まだ吹っ切れてないから。 せめて、もう少し時間がほしいから……。 「で、安岡。いま自分で断らないって言ったよな?」 「? うん」 頷くと北村くんは口の中でごにょごにょ言って、やおら頭を下げてきた。 「え、えっ?」 「悪い、嘘ついてた! 俺、腰痛めてなんてない!」 突然大声でそう告白されて、だけど別にそれはもうどうでも良かった。 「どうしてだ?」 その北村くんの言葉にはわざと答えなかった。こんな答えを言うのは恥ずかしかったから。 北村くんといれば、僕は変われる気がするからだなんて。 安らぎを与えてくれる彼のそばに、ずっといたかったからだなんて。 ~~北村編~~ 本音を言えば、初めは変な奴だなとしか思ってなかった。 いつも下を向いていて、たまに何かを言いたげにしてても、すぐにそのまま口を閉ざす。 カットモデルを頼んだのだって、ただ髪が魅力的だったからでそれ以上の理由は全く無かった。 ……そのはずだった。 「結、今日も俺んち寄ってくか?」 帰りのHRが終わり、俺は二つ前の席の小さな頭に声を掛ける。 「うん」 コクンと頷きながら小さな声で返事をする結。 やべぇ、可愛い。 「……北村くん?」 「あ…っと、駅の方には今日は行かなくていいよな?」 動揺を隠すための俺の質問にもう一度首を縦に振って、異議がないことを伝えてくる結。 ――あーもーっ、ほんとにこいつは…っ。 思考がループしかけてるのに自分で気づいて、ゲフンと一つ奇妙な咳払いをする。 「うし。じゃあ行くか」 そうして先に歩き出してから、いつものように何気なさを装って後ろを振り返る。そして結が少し早足でついて来てるのを確認して、少し速いかと俺は歩調を緩める。 こうやって二人で、ゆっくりとした歩調で歩いていく時間は、俺の中でかなり居心地の良いものになっていた。 結――安岡結と個人的に付き合うようになって大体一ヵ月半。ああ、付き合うって言ってもただの友達付き合いだからな。 俺が結に話しかけたのは二年に進級して少し経ったころ、ゴールデンウィーク明け。 いつも猫背で下を向いていて、その上ぼさぼさの長い髪でよく顔が見えないクラスメイトを、周りは不気味がってるというか、とにかく敬遠してるかのように積極的に関わろうとする奴はいなかった。御多分に漏れず俺もそうだった。 だけど最初に話しかけたのは俺。 まったく話したこともなかったから、俺が声をかけると結はかなり驚いたふうだった。前髪で表情はわからなかったけど、雰囲気でわかった。 ……さて、なんで俺が急に結に話しかけたかといえば、もちろん理由がある。 俺はたまにチンピラに見られるような外見をしているけど、これでも美容師を目指している。なんでか……は、どうでもいいか。別に興味もないだろうし。 ともかく、目指してるだけあってちゃんと練習も積んでいる。 それでその練習台を最近まで彼女に頼んでいたんだが……。 『私の何処が好きなの?』 『髪だけ』 ……まあ、フられるのは当たり前だよな。 そんな理由があって、俺はそれまで大して気に留めてなかったクラスメイトに目を付けたわけだ。 無造作に伸ばしっぱなしっぽいぼさぼさの髪は、切るにしてもケアするのにも絶好の腕の見せ所という感じだったし、後で聞いたところ今まで一度も染めたこともなく真っ黒な髪は俺の好みというのもあったからな。 「な? 頼む、良いだろ?」 カットモデルの依頼とその理由を簡単に伝えてから、ふざけ半分もあって結の肩に手を置こうとしたところで、バシンという音とともに俺の手ははじかれていた。 ――……あ? 思わずはじかれた手を見て、動きが止まってしまった。自分よりもかなり小さい体の、その細い腕に思いっきり振り払われる。 自分で思うよりそのことに驚いていたらしい。気づけば俺は、結に押されて完璧に転ばされていた。 「っ…てぇ~」 周囲の椅子や机にぶつかりまくりながら、しかも背中から倒れこんだせいで、やたら派手な音とかなりの痛みが襲い掛かってくる。 「ぁ………ごめんなさい」 短い、聞き逃してしまいそうな謝罪の言葉だけを残して、結は静まり返ってしまった教室から走り去っていく。 こんな感じが結とのファーストコンタクトだった。 「北村くん……?」 結の顔を見ながらあの時のことを思い出していたら、怪訝そうに名前を呼ばれてハッとさせられた。なんでもない、とお茶を濁しながら、でもつい笑いが漏れてしまう。 ――そうそう、これだよ。 結にすっ転ばされた次の日。俺は寝坊して大遅刻をかました。つか、授業は一個も出れなかったんだからもう欠席だな。 いやもう、真面目にあんな寝坊やらかすなんて思ってもみなかったぜ。何でかと言えば、どうやったら結に承諾させられるかを考えてるうちに深夜になっていたというまるでアホな理由だ。 ま、そのおかげというか、『転ばされたせいで腰を痛めたから、そのお詫びとして引き受けろ』という半ば脅しのような要求の仕方を思いついたんだ。 …………ぶっちゃけ成功するとは思ってなかったけどな。 俺よりこんなに小さい結に転ばされたなんて誰も信じないし、一応目撃してたクラスメイトにさえ『安岡に何したんだ?』と非難の目を向けられたくらいだった。いや、それはともかく。 今の結の見上げてくる感じから、俺の脅しに怖々と頷いたあの時の結の様子を思い出しての笑いだったんだが、結はそう思わなかったらしい。 どうやら俺にからかわれたと取ったらしい結は。 「………………」 静かに拗ねているようだった。 「どうしたんだ?」 「……なんでもない」 「なんでもないのに、こんな膨れてるのか?」 言いつつ、気づかれないように結の顔に指を近づけ……。 「っ!」 しっかりガードされてしまった。ちっ。 結にカットモデルを頼んで一ヶ月ちょい。その間俺は髪のケアばかりしていて、カット自体はそれほどしていない。せいぜい毛先を整えるくらいだ。それだけで ボサボサだった髪はかなりマシなったが。 だけどその間、スキンシップは欠かさずにしてきたわけで。 そのおかげかクラスで唯一俺だけが結に懐かれている。(実際こうやって名前で呼ぶことを嫌がられてないし) 何より最近気づいたことだけど、いつの間にか結が俺に話しかけるときにどもることが無くなったんだ。 他のクラスメイト相手だとまだまだ怯えた感じを残している結がこうやって俺だけを信頼してくれるのは、誰にも懐かない動物が自分にだけ心を開いたようで優越感のような、どこか気分の良いものを感じている。 「やっぱり……」 「ん? どした、なんかあったか?」 不意に呟かれた聞き逃してしまいそうな声に質問をすると、結は「なんでもない」と首を振って言葉を引っ込めてしまう。 「そっか」 正直もどかしいと思わないわけではない。結以外の奴だったら言いたいことくらいちゃんと言えと怒鳴りつけてるかもしれん。 ……だけど気になってるからな。 『いやだっ!!!』 初めて結の髪を触った日の、あの悲痛なまでの叫び。 『やめて、放してっ!』 普通前髪を上げられただけで、人はあそこまで取り乱したり、怖がったりはしない。そう、以前に滅多なことがない限り。 何があった、なんて訊くことはしない。せっかく笑えるようになってる奴の傷を自分の好奇心でえぐるような最低な真似だけはやっちゃいけない。 ……ま、なんのかんの言って、結局は結が嫌がるようなことができないだけだけどな。 だからアレ以来、髪を触るとき勝手に前髪をいじることはしないし、触るときもちゃんと前置きをしてからにしてる。 「…………けどなぁ」 また結の素顔を見たいというのもこれまた本音だ。 ほんの短い間しか見れなかったけど、前髪に隠された結の顔は……めちゃくちゃ可愛かった。いやもう本当に自分の語彙の少なさを痛感するほどに。 そこらのアイドルとかがイモに見えるほどに、結の顔立ちは中性的で綺麗で……見ているうちに吸い寄せられるような錯覚すら受けて実は相当やばかった。あの時、叫ばれてセーフだと思うくらいには。 ――あの顔のせいか…? 顔を見られただけで結が恐慌状態に陥ってしまったのは……。 結が元男であることはどこかから聞こえてきた噂で知っていたが、中学のころに女体化したということはつい最近本人から聞いた。 もしかしたら結がこんなふうになってしまったのはそのころに何か…………。 そこまで考えて、今まで考えていたことを散らすように俺は頭を振る。 友達の過去を勝手に詮索するような真似をして、それでいったい何になるって言うんだ。 「おじゃまします」 「はい、いらっしゃい」 そうしていつものようにきちんと礼儀正しい結に答えて、俺たちはいっしょに部屋に入った。 だけどやっぱりもう一度くらいは顔を見てみたいなんて思いながら。 『放っておいて触れないで(2)』へ
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もしもし、キョン? 何よ、こんな夜中に電話なんかかけてきて? 寝てたらどう責任とるつもりだったわけ? 『起きてたからいいだろ』とかそんな問題じゃないでしょっ!? ——えっ……オメデトって、ちょ、ちょっと待ちなさい! なんで知ってんのよ、あたしの誕生日! 『聞いた』? 誰によ? へぇー、谷口? あいつ……後でシメるわ。 ——ちょっと、何笑ってんの! 『そんな事言いながら、声が笑ってるぜ』? バババ、バカキョン! 笑ってないわ、全然嬉しくなんかないわよ! なんで誕生日をいの一番にあんたから祝われなきゃいけないのよ? 嬉しいわけ、……ないでしょ。 『そういう事にしといてやる』じゃないわよ、あんた生意気よ! 団長に対する心構えがなってないわ! ……もう、いいわ。今日一日かけてじっくり団長たるあたしへの接し方を教えてあげる。 九時に駅前集合よ! 遅れたら、罰金刑と私刑の両方に処すわよ、いい? じゃね。 ……キョンと誕生日にデート、誕生日にデート、誕生日にデート……う゛ードキドキするぅ。 眠れないよぉ。 もしもし、——なんだ、またあんたなの? いい加減にしないと、怒るわよ。 はぁ……。何よ、その反省の色ゼロな声は。 ——で、何の用よ。このあたしの睡眠時間を削るぐらいなんだから、ものスゴい用事でしょうねっ? 違ったら承知しないわよっ! ……。 ……。 ねえ、さっさと言いなさいよ。……何、深呼吸なんかしちゃって。 え? は? ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさい。どういう意——。 『忘れろ』って? あ、コラ! 切るなぁ! 聞き間違いじゃ、ないわよね……? 『好きだ』って言ったわよね? どーしよ……。嬉しいけど……、んー……何て言うのかし——ひゃうっ! もしもしもし、なななな何、はい、あたしは涼宮ハルヒです、どちら様です、か……ってキョンなの? あぁ、びっく——ううん、なんでもないわ。忘れなさい。 ……うん、その事なんだけどね、いいわよ。どうせ谷口辺りから聞いてるでしょ? あたしは告白されても断んないの。……振るのは早いけどね。 明日? 早速ね。別に、いいけど。『八時』? 分かったわ。 精々あたしを楽しませなさいよっ! いいわねっ!? じゃあね。 ふふ、明日はポニーテールにしよっ、と! ふぁ、ねむ……。 ——ぐぅ。 もしもし、——そ、あたしよ。——何、その寒い反応は。あたしから電話しちゃいけないわけ? ——じゃあ、問題ないじゃないの。——何よ、眠そうな声しちゃって。 まさかバテバテなのかしら? 情けないわねぇ。あたしはまだまだ余裕よ! 明日も同じコース回っても問題ないわね。 ——『学校があるだろ』? バカキョン。例えに決まってんじゃない。 もしどうしてもってんなら……その、いいけど……。 ——『遠慮しとく』ぅ? この、バカ、マヌケ、ドンガメ! あたしは楽しかったのよ! 悪い? 楽しかったんだからもう一回って思っちゃダメなのっ?! あんたと一日歩き回ってただけでこんな風に思うなんてどーしちゃったのかしら、あたしはっ! ——そーよ、“せーしんびょー”よ。文句ある? ないでしょ? ……。 ……何よ、何なのよ。何で黙っちゃうのよ。 ——『満月』がどうかしたの? 『綺麗だな』って、……まさかあんた外にいんの? ——『見てみろよ』? ……まあ、見てあげてもいいけど。へぇ、『外で見たほうが綺麗』なんだ。 ……風邪ひいたら責任とりなさいよ。治るまで泊まり込みで看病しなさいよ。 ——え、電話? 切らないわよ。あんた、切ったら即私刑だからね。 ——ふう、寒いわね。……あ、本当だ。あんたに風流を解する精神があったとは驚きだけどね。 ——ひあぅっ! 誰っ!? ……え? キョンなの? はぁ、驚かさないで、突然後ろから抱くのは反則よ。 ……で、何しにきたのかしらこんな寒い夜に携帯片手にあたしん家まで。 ……。 ——お、お、お、『お休みのキス』って……うわぁ、恥ずかしい奴……。 ……でも、ありがと。 ——ちゅ ……。 ……。 ……出ないわねぇ。折角あたしがかけてやってるんだから一回目で出なさいよ、バカキョン……。 あーあ、お風呂でも入ろうっと。 〜二時間後〜 ……うー、すっかり長風呂しちゃったわ。水でも飲も。……あれ、親父帰ってたの? おかえり。 ——あ、丁度いいわ。それもらうね。……『飲むな』? いいじゃない、水くらい。 ——ってあれ、これ、おさけ? 先言ってよ、イッキ飲みしちゃったじゃない。まあ、いいや。おやすみぃ。 ……『酔って』なんかないってばぁ。大丈夫よぅ。あ、でも少しフラフラするかも。 うん? 大丈夫、大丈夫、階段から落ちたりなんかしないから。……キョンでもないんだしね。 ふぅ、疲れたわぁ。親父も先に言ってくれればいいのに。あたし一生の不覚よ。 あ、そうだ。携帯はっと……着信、十件? キョンに、キョンに、キョン……。 ちょっとかけすぎよあのバカ! ……でもしょうがないわねぇ。 可哀想だし、あたしからかけてあげよぅっと。 ——あ、もひもし、キョン? そーよ、あたしよー。……んー? あ、さっきまでぇ? お風呂よ、お風呂。 ——うん、うん、そうなのよ。……え、やーねー『酔って』にゃんかないわよ! ——ってさっき親父にも同じこと言われたわぁ。 ——そ、一言一句ちがわなかったわよ。『お前、酔ってるだろ』って。 ……たかだか、お酒一杯で酔うわけなーいじゃない。 ——『やっぱり酔ってる』? しつこいわね、あたしが大丈夫って言ったら何もかも、おっひぇなのひょ! そうしょう、『そーゆーこと』にしとき、……はふぅ、なさい。 ——ふわぁ、うーん? ……なんか、眠くなっちゃった。 ……そう、そう。……うん、お休み、また明日ね。 ——あ、後ね、だぁい好きよ、きょー……ぐぅ。 ——もしもし、キョン? ……何よ、『今日は酔ってないだろうな』ぁ? ……あたしは飲んだくれか、バカキョン! 開口一番に言うセリフじゃないわよ! ——というより、あんたは神聖にして絶対たる団長様に対してどんなイメージを抱いているのかしら? ……言ってみなさいよ。ええ、きっと怒らないから。 ——しつこいわね、さっさと言いなさいっ! いつまで念押し続ける気なのよ! ——ふーん、『短気、自己中心的、ヒネクレ者』。何、まだ続くの? ……それより、そんな風に思ってたのに告白するって、あんた被虐趣味ある? ——『巻き込まれ型人生』なんて、あるわけないじゃない。それは主体性の欠如に他ならないわよ。 ——え、『本番はここから』? ——『可愛い、スタイルがいい、頭が良い、行動力溢れている、ポニーテールにすると魅力度36パーセントアップ』 ——何よ、魅力度って。……『胸のトキメキ具合』ぃ? ちょっと気持ち悪いわ。 ——でも、でもね。さ、参考までに訊きたいんだけど、……36パーセントアップって、どれくらいなの? ——『上限を軽くオーバーするくらい』ってどういう意味よ? ……。 ……うわぁ、よくそんな歯の浮くようなセリフが言えるわね。 ——え、あたしがあんたをどう思ってるか? 決まってるじゃない! 一度しか言わないわよ! ——愛してる。 ……。 ……。 ——あーあー、眠い眠い。寝ることにするわ。んじゃね! ——プツン ……勢いで言っちゃったけど恥ずかしいぃよぅ。うー、心臓がぁ……心臓がぁ……。 ——もしもーし。……ふふ、……ん、近頃電話に出るまでの間が短くなったじゃないって思ってね。 ——まあ、『毎日同じくらいにかけて』て気付かなかったからあんたの頭を疑うけどね。 ……そーよ、あんたは十分前科あり、なんだから。鈍感過ぎんのよ。 ——『お互い様』ぁ? どの口が言うのかしら、キョン? ……まったく、減らない口ね。少しは妹ちゃんの素直さを見習いなさいよ。 ……まーた、あー言えばこー言うのね。 ——このあたしが一日付きっきりで素直になれるように指導してあげるわよ。 ……何でそこで有希の名前を出すのかしら? 有希の方が『素直だから』? ……あんたは一度周りから自分がどう想われてるか確認……はしなくていいわ、やっぱり。 ——くしゅん! うう、寒っ! ……ん? 散歩よ、散歩。星空ウォーク。 ……こないだあんたに言われて外出てからはまっちゃってね。案外綺麗なのよ。 ——でもまだ寒いのよね。上着着ててもクシャミでちゃう。 ……心配してくれてるの? ふーん、『言えば付き合って』くれるんだ。 ——じゃあ、早速明日付き合ってね。……『急いては事を仕損じる』ぅ? ……バカね、あたしは思い立ったが吉日がモットーよ。 ——と言うわけだから今から来なさい。……ふふふ、そんな慌てないで、冗談よ。 ——そ、明日よ。あんたん家の方に行くから。……いいじゃない、たまにはシャミや妹ちゃんにも会いたいの! ——それと、女の子が一人夜道は危ないから泊まることにするからね! 『考え直』さないわよ。 ——じゃあね。明日、楽しみにしてるから。 あぁぁっ! キョンの家に泊まるなんて言っちゃったけど、 ……正直早まったかも。ヤバイわ、どーしよー……。 ……悩んでもしょうがないわ! もう、なるようになれ! 襲いたきゃ襲っちゃえっ! ……って、言ってて恥ずかしいのよ、バカハルヒ……。うぅ……。 ……。うぅ、夜中に出歩くんじゃなかったわ。頭が痛い……。風邪のバカ! ……いたたた。だいぶ頭に響くわ。おとなしく寝てよ。 ……そういえば、今日はみんな部活どうしたんだろ。あたしが居なくてもちゃんとやったかしら。 そうなら良いんだけど、でもそれはそれとして誰一人としてお見舞いに来ないってどういう訳なの? 団長の一大事だってのに。少なくとも電話くらいかけてくれてもいいじゃない……。 あーあ、みんな冷たいわ……。極寒よ、南極なんて目じゃないわね。 ……ふぅ、おやす——っ! ——もしもしっ!! ……ああ、やっぱりあんただったの。……うん、大丈夫よ。 ——え? 『息が荒い』? 気のせいよ、気のせい。 ——さっきまでは世の無情にしみじみと浸ってたんだけどね。 ……『体調』? うん、まあまあね。明日からはまた学校に行けると思うわ、いいえ、行ってみせるわっ! ——たかだか風邪ごときがあたしを阻めるわけないのよ! ——なんでそこで苦笑いしか出てこないのよ、あんたももっと喜びなさい。 ……まさか。『無理』なんかしてないわ。風邪なんて一日寝てりゃ治るのよ。覚えときなさい。 ……偉そうな物言いね。泣きながら感謝するくらいのものなのよ、あたしの至言は。 ——ちなみにまだまだあるわよ、聞く? ……遠慮しないでいいじゃない。こんな『風邪がぶり返す』わけないわ、大丈夫よ。 ——そうそう、その態度よ。じゃあ、行くわよ。 ……。 ——大好き! ……。 ——あ、ヤバイわ、顔が熱い。熱が上がって来ちゃったみたい。じゃあね、おやすみ。 ……いいよね、もう一日くらい休んでも。 それで、明日は、……お見舞いに、来て……よね……キョ——……。すぅ。 ……うー、うるさいわよ。……誰なの、病人の耳元で騒ぐバカは? ……っ! ちょっと、何であんたがいんのよ! 『お見舞い』? 誰がそんな事を頼んだのかしら? ——まあ、どうしてもって言うならまだいても良いけど。 何よ、『もう帰る』っての。……『時間』がどうだっていうのよ。 ……じ『十一時』ぃっ?! 嬉しく……は、あるけど限度があんでしょ? ——信じらんない。……ちょっとここで待ってなさい。……ああ、それと。 ——あたしが帰ってきたときにあんたが1ナノメートルでも動いてたら死刑だからね。 ——『罪状』? そんなのどうでも良いわよ。まあ、強いて言うなら「あたしの部屋を荒らした」罪ね。 裁判官かつ検察官あたし、被告あんた、弁護人はなし、……って裁判をしたくなけりゃ動くんじゃないわよ。 ——お母さん! 一体何時まであいつをここに置いとくつもりなのよ。もう夜じゃないのっ! ——『帰さないで』? そんな事頼んでないわよ! ……え。嘘……。ホント? ホントにホント? あちゃー……。 ——何か頭が痛くなってきたわ。ちょっと水飲むね。……あ、親父、今日も早いのね。おかえり。 ——『飲むか』って。病人にお酒をすすめる神経が理解できないわ……。 ……『酔った勢いでやっちまえ』? ……ねえ、親父、それ完全にセクハラ。 お母さん。このタコ入道どうにかしてー。 ——『用事』? あ、そう、そうなのよっ! もう遅いから、あいつに布団用意してあげてよ。 ……そ、そんなわけないでしょっ! もぅ、酔っ払いは嫌いよ、バカ親父っ。ともかくよろしく。 ——ふう。どうやら動いてないわね。……よろしい。 ……ところでさ、あたし良く覚えてないんだけど、あんたを引き留めたって本当? ——……なんか、腕をガッチリ掴んで「今夜は帰さない」って言ったとか、言わないとか。 ……あ、やっぱりやっちゃったんだ。 ——こうなりゃヤケよ。今夜は……寝かせないんだから。 『とか言ってお前が寝てりゃ世話ねえよ。……やれやれ』 ——もしもし、……うん、あたし。……ふふ、そうね、もう癖みたいな物ね。 ——『理由』? あんたの声聞いてるといい具合に眠くなるのよ。夢見も……いいしね。 ——そうよ『子守唄』みたいなもんよ。……いいじゃない、あたしの役にたってるんだし。 ……ところでさ、一つ訊いていい? あんた今日の市内探索ずっとアクビしてたけど、昨日は眠れなかったの? ——『一睡もしてない』? ……まさか、あたしが寝てるのをいいことに、……何よ、そのバカを相手にするような口調は。 ——『朝起きたとき』は、なんか枕が何時もより固かったなー、って思ったけど。 ——ひひひ『膝枕』ぁっ?! バカ、変態! ……そういうのはあたしからやるもんでしょ、……普通。 ……ともかく、あたしを起こしちゃ悪いと思ってその姿勢でまる一晩過ごしたわけね。 ——あ、じゃあさ、手をしきりにさすってたのは? ……ふむ、あたしの『髪をずっと撫でてた』、と。それで筋肉痛になったのね。 ——実はあんた頭髪萌? 『柔らかくて、触り心地がいい』から『つい夢中で』、ねえ……。 ——あたしの権限であんたを第二級の変態に認定するわ。 ——そうよ、文句ある? ちなみに『第一級の変態』の基準は……やっぱり言わないでおくわ。 ——と言う訳だから、あんたが間違いを起こさないようにあたしがキッチリ指導してあげる。 ……。 ……そこでその発想がでてくるあんたに脱帽だわ。鈍感を軽く超越してるわよ。あんたの心は大理石かっ?! ——『健康な男子高校生にそんな事を匂わせるな』? ……よーく分かったわ。あんた準一級の変態に格上げね。 ——ねえ、キョン。今、物凄く眠い? ……『そう』よね、声がいつも以上にマヌケっぽいしね。 ——そ、こ、で! ……あ、何その「あちゃー」って感じの声は。……『何を言うか分かった』のね。 ——ふふふん。嬉しいでしょ? あたしがわざわざ膝枕しにあんたの家に行ってあげるんだから。 ——『風邪ひかないうちに帰れ』? それは無理な相談ね。今いるのはあんたの家の玄関前なの。 ——さあ、さっさと扉を開けなさい! ……ちょっと肌寒いから五秒以内ね。 ……あ、でもあんたの顔を今すぐ見たいからやっぱり三秒以内ね。 お邪魔しまーす。えへへぇ……。 ——もしもーし、そうそう、あたしよ。……え? 『ゲームしないか』? ……ふふふ、このあたしを相手にいい度胸ね。 ——いいわ、乗ってあげる。後悔しても知らないわよ。 あたしは何においても全力投球、白旗なんて掲げても勘弁してあげないから! ——で、ルールは? ……『先に電話をかけたほうの負け』なのね。分かったわ。……じゃあ、一旦切るわよ。 ……何してんのよ、早く切りなさいよ。……もう、しょうがないわね。『いっせーの、せーで』! ……。 ——もうっ! 切りなさいってば! あんた、やる気あんのっ?! ……『指がボタンを押してくれない』ぃ? あんたって奴は……。 ——いいっ? 今度こそ切りなさいね、せーのっ! ……。 ……キョンのバカ。こうなったら、絶対あたしからは掛けないからっ! 断固としてっ! ……。 ……あ。バカハルヒっ! 自律しなさいっ! しっかり、ファイトッ! ……はぁ。 ……あ゛ぁぁぁ、時計の進みが遅いっ! もう五時間は経ったわよ! なのに……それなのに一分も進んでないわ! きっと狂ってるのよ。 ……ええと、時報は1、1、7、っと。……一分も経ってないわ。 ……。きっと時報が狂ってるのよ……。うん。別の事を考えないと……。 そうだ、いっそのこと携帯を壊すとか良いかも! それで今度はキョンと同じ機——。 ……って逆、効、果、よっ! ……うぅ、別の事、キョンとは無縁の事……。あ。 そうだわ、勉強よ! 馬鹿なあいつとはまさに水と油! これなら大丈夫っ! ……。 ……で、……今度の試験の予想問題なんて作ってどうすんのよっ! しかも、「キョン用(はぁと)」とかっ! ……本当に恋愛感情なんて精神病の一種だわ。悲しい、本っ当ーに悲しいわ。 ……大嫌いよ、キョンなんて。……バカ、キョンのバカぁ……。 ……——! もしもしっ!? ……ふふーん、どうやらあたしの勝ちみたいね。それじゃあ、罰ゲームよ。 ——『そんなこと聞いてない』ぃ? 知らないわよ、そんなの。 ——いいっ? よーっく、ききなさいよ。 ——今晩は電話、……切っちゃ駄目よ。……切ったら、私刑だからね。 ——『それじゃ、罰ゲームにならない』? ……いいのよ、あたしへのご褒美になるから。 ……ねえ、キョン。やっぱり、大好き……。 ――もしもーし、……もう誰からの電話か、確認すらしないのね。……ちょっと寂しいかも……。 ——! ……うん、そうよ、あたしっ! ……ふふ、あんたって変な奴ね。 ——やーね、誉めてんのよ、ちゃーんと。……『そんな気はしない』の? ——じゃあ、……あんたって優しい、わよね。 ……。……二度目はないから。ちゃんと脳裏に焼き付けといたでしょうね? ——よろしい。……所でさぁ、一つ知りたいんだけど。 ——うん、別に『大した事』じゃないのよ。本っ当ーにちょっとした事なんだけどね。 ……あんた、昨日電話切ったでしょ。……『何の事かなぁ』? ……いい根性ね。 ——バレバレの嘘つくんじゃないのっ!……刑を重くするわよ。 ——そうねぇ、手始めに明日の昼休みね。……『奢り』? ……勿論それもあるわ。 ——でもそれだけじゃないのよ。 その後で屋上に登って、あたしが満足するまで叫んでもらうからね。 ……『何を?』って分かってるでしょ? ……『謝罪の言葉か?』 ——あんた、やっぱり死刑にしようかしら? ……屋上から紐なしバンジー行ってみる? ——そんなんじゃなくて、「ハルヒ、好きだぁっ!」って叫ぶのよ! ——声が枯れるまでね。『小さかったら』、……そうねぇ、放送室を乗っ取って全校に流してもらうわ。 ——え? ……これが『刑罰じゃない』って言うの? じゃあ、やっぱり紐な——。 ……『遠慮しとく』のね。 ——あ、それと、放課後なんだけど、……ちょっと付き合ってもらうわ。 ——え? あのね、携帯を、かえようと思って。 ……ほら、あるじゃない。特定の番号に電話かけ放題ってのが。 ——バーカ。あんた以外にいるわけないでしょ。 ……それでね、どうせだから、……同じのにしよ? ……うん、じゃあね。また明日。 キョンとお揃い、キョンとお揃い、キョンとお揃い。……えへへ。 ――もしもし、あたし。……へ? ……あ、ごめん。間違えちゃった。 ――本当はキョンにかけたつもりだったのよ。ごめんね、古泉君、お休みっ! いけない、いけない。ちょっとぼんやりしてたみたいね。……あれ、電話だ? ――もしもし? あ、みくるちゃん、どうしたのよ? ……へぇー、そんなお店が、ねぇ……。 ――『鶴屋さんが教えてくれ』たんだ。……うん、ありがと。今度行ってみるわ。 ――あ、でさぁ今度のコスプレ衣装なんだけど……。 ~一時間後~ ――あ、もうこんな時間ね。……うん、また明日ね。お休み! ……中々面白そうなお店ね。今度キョンと行ってみようかしら。……そうだっ! あいつに電話しなきゃ! ……。出ないわね。 ……。……あ、もしもし。……ねえ、もしかして寝てた? 『違う』の? ――なんかテンション低いから寝惚けてるのかな、って。 ……別に『忘れてた』訳じゃないわよ。みくるちゃんから電話かかってきて話してたの。 ――なんかあんたいじけてない? ……『余計なお世話』じゃないわよ。 ――あ、ちょっと『切る』な! ……。もしもし。……ちょっと、話くらいしてもいいでしょ? ――『眠い』の? ……うん、あたしもよ。……でも、あんたとこんな雰囲気のままじゃ、寝れないわ。 ――『泣いて』ないわよっ! バカ! ――別にあんたが謝らなくてもいいわ。……あ、そうだ。一つだけ言うこと聞いてあげる……。 ――へ? 『弁当』? ……うん、分かったわ。それでいいのね。……まかせなさい! ――じゃあね! お休み! お弁当……。キョンに弁当……何が良いかな。 唐揚げ? 煮物? お箸で『あーん』とかっ!? 眠れないわ! ――もしもーし。……うん、そうよ。……『今日は早い』? んー、ちょっと寝不足でね。 ――でも、あんたと話したいし。……いいじゃない。『他愛もない世間話くらいしか』することなくても。 ――こう言うのは何を話すか、より、誰と話すか、が大事なのよ。 ――……そ、あたしにとってはあんたよ、残念ながら。……あんたは? ――ねえ、話反らそうとしてるでしょ? そうは問屋とあたしが卸さないわ。 ――社会の基本はギブ・アンド・テイクよ。 ……あ、因みにあんたとあたしに限ってはギブ・ギブ・ギブ・アンド・テイクだから。 ――……ともかく、あたしが言ったんだからあんたも言わなきゃ駄目よ。 ――……えへへ。……『気持ち悪いな』? だって、改まって言われると嬉しいじゃない。 ――何よ? ……『三回に一回は返してくれるんだろ』って、……ああ、さっきのは例え。三回も言わなくて良いわ。 ――『何時から』? んー、あたしは、あんたと初めて会話が成立した時からよ。 ――『どの位か』って言うとね……、これはとっておきだからあんたから言いなさい。 ――『海より深く――』って、どこの将軍の奥さんよ? ――……あたし? あたしはね。 ……。 ――言わなきゃ、いけない? ……そうよね、『当たり前』よね。 ――……あたしは、……あたしはっ! ……う゛ー……。 ――ちょ、ちょっと待ってね……。 ――え? 『何時まで』か、って言うと、えーと、あんたが、その、……十八になるまで。 ……。 ――……何か言いなさいよ。心拍数が、……やばいのよ。今知り合いに顔見られたら死ねるわ……。 ――! じゃあ……、その時はあんたにいの一番で電話かけるわ。 ――んーと、アトランティス大陸に! ――『任せろ』? 期待、しちゃうわよ? ……じゃあね、お休み。 ……一年かぁ。……長いなぁ。……はふぅ。……ふぅ。……すぅ――。 ――もしもし、キョン? ……あら、随分と鼻声ね。風邪? ……そうなの。 ――無理しないで寝てなさい。……うん、なんなら今すぐ切るわ。 ――あんたが『構わな』くてもあたしが、構うの! ――……電話でもいいけど、面と向かって話したいじゃない。だから、……明日病欠したら私刑よ? ――まあ、そこまで言うなら、布団にもぐってあたしの話でも聞いてなさいよ。 ――あ、寝ちゃってもいいわよ。独り言みたいなものだから。 ――一年の時にさ、夢を見たのよ。詳細は省くけど、馬鹿みたいな夢よ。 ――あたしは学校にいて、おまけみたいにあんたもいて、何か変な巨人もいたの。 ――ともかくね、色々あってクライマックスに、夢の中のあんたが戯言と一緒にキスしたの。 ――……あろうことかこのあたしによ。もう一度夢の中で会ったらはっ倒してやるわ! ――でね、そこで目が覚めちゃったの。最悪じゃない? 一番盛り上がるシーンで幕が下りちゃったのよ。 ……。 ――……ねえ、あんたは消えないわよね? これは誰かが見てる夢じゃないわよね? ――時々不安になるのよ。こんな幸せなのは、夢だからじゃないかって。 ……。 ――キョン、聞いてる? それとも……寝たのかしら? ……。 ――でも、いつか、……またいつかもう一度聞いてね。あたしのこの不安を。 ――それで、その時は笑い飛ばしてくれたらいいな……。 ――ずっと側に居るって約束してくれたらいいな……。 ――おやすみ、キョン。また、明日ね。 ――もしもし。……あれ、妹ちゃん? どうしたの? ――『ハサミ』借りに、ね。 ああ、そうそう、キョンは? ……『お風呂入ってる』の。ふーん。 ――……? あ、バカキョン。人が妹ちゃんと話してるのに……。可哀想じゃないの! ――『電話に勝手に出る方が悪い』のは、そうだけど何も無理矢理奪わなくてもいいじゃない。 ――まあ、良いわ。所でさ、あんたは一人っ子の方が良いって思ったことある? ――へぇ。意外ね。『ない』んだ。……ん? 何と無くよ。あたしの勝手なイメージ。 ――あたし? あたしは、そうねぇ……上が欲しかったかな。 ――そうよ、妹が「宇宙人はいるの」って主張したら、「俺の知り合いの何とかは宇宙から来たんだ」って言うような、 ――ちょっと、何よ? 何か変な事言った、あたしは? 笑い過ぎよ! ――ともかく、そんなノリの良くてちょっと歳の離れた兄貴が良いわね。 ――はい? 『子供』ぉっ? ……えと、それって、誰が誰の子供を産む設定? ――あ、『そんな細かいとこ』は考えてないの……。 ――でも、やっぱり二人は欲しいわね。男の子と女の子が一人づつ。 ――別に『五つ子』じゃなくてもいいわよ。だってそれは「不思議」っていうより「珍しい」だもの。 ――元気に育っていつまでも夢を見ることを忘れないでいて欲しいわね。 ――そうよ、いいじゃない。家庭は幸せが一番よ。 ――あとねぇ、旦那には唯一絶対の条件があるの。 ――聞きたい? でも、教えてあげないわ。だって……。 ――ううん、何でもない。忘れて。それじゃ、おやすみ! ……言えるわけないじゃない。キョンじゃなきゃ嫌だ、何て。 はうぅ……。キョンにベタボレなあたし……。顔が熱いよぅ……。 ……すぅ。……すぅ。……んん? ――ふぁい、もひもーひ、あたしでふ。ハルヒぃ。……うんん、キョン? …… ――っ! ……一旦切るわ! 十秒後にかけなおすからっ! ……ああ、もう! あたしのバカ! ……と言うか睡魔のバカ、バカ、どバカ! 恥ずかしいぃ! くぅぅぅ……。何が「もひもーひ」よ! 「あたしでふ」よ! うぅ……。 ――……もしもし。……そうね、確かに『寝惚けてた』わ。春だしね。 ――団長命令よ。今すぐ、記憶から消し去りなさい! その話題一回に付き罰金だからね。 ――『具体的』には、あんたの財布の中身が空になるまで奢りよ。『元から空』だったら私刑よ。 ――それはその時のお楽し……じゃなくて、その時のあたしの気分しだいよ。 ――だいたい春がいけないのよ! まるで睡眠を推奨するような温かさなんだもん。 ――あーあ……。……え、『可愛かった』? ……。そそそ、そう? ……へへ。 ――って、おだてても判決は覆らないわよ! ……あ、でもさあ、その……も、もう一回。 ――……。ふふふ。ふぁ……。でもやっぱり眠いわ。 ――うん、おやすみ。またね! ……っ! ……もう、キョンのバカ! 寝る前に『かわいい』なんて言われたら、 興奮して寝付けないじゃない。 ……でもかわいいって言われたぁ……。たまにはあのキャラでも良いかなぁ。 ……ん、電話だわ。 ――もしもーし、あたしよ。 ――んふふふふ……ねえ、キョン? 昨日の今日だし、その話題一回に付き罰金って覚えてんでしょ? ――……選ばせてあげるわ、明日罰金がいいかしら、それとも今すぐ私刑? ――そう、『罰金』ね、分かったわ。明日から二週間昼休みは学食について来なさい。 ――いいじゃない、連休が間に挟まってるからたったの七日間よ。 ……。 ――ん、ちょっとね。……去年の今頃だったかしら。 ――あんたがあたしに話しかけて来たのが。……そうよね? 一年って早いわね。 ――夜って時々鬱にならない? 一年がこんなに早いなら、一生もあっと言う間じゃないかな、って。 ――死んだらどうなるんだろ、とか。悲しんでくれる人はいるかな、とか。 ――ごめん、ちょっと重いわね。……え? ……うん、ありがと。 ――別の話しましょ。……そうねえ、今度のみくるちゃんのコスプレどうしましょうか。 ――……ふむふむ、分かったわ。じゃ、それにはしないわね。 ――え、当たり前じゃない。あんたはただでさえみくるちゃんをジロジロ見てるんだもん。 ――その変わりあたしが着てあげるから。何ならポニーテールのオマケ付きでっ! ――え、だったら別のがいいの? ふーん……。……というか『ポニーテールなら』何でもいいんだ。 ――節操ない奴ね。……あら、『違う』の? ……うわ、信じらんない。良くそんな恥ずかしいセリフを……。 ――あんた今日もあたしを寝かせないつもりでしょ? ……まあいいわ、時間も時間だし、また明日。お休み! あのバカ。あたしならどんな格好でもいい、とか……ポニーテールなら更に良し、とか……。 うぅ……夜更かし決定よ、バカキョーン……責任取れぇ……。 んー、明日はぁ……。で、次は、……っと。 ……。 ふむ、こんなもんかしらね。……あ、キョンからだわ。 ——もしもーし、そうそう、あたしよ。……『今』? 明日から休みだし、ちょっと予定を考えてたの。 ——そうよ、当然じゃない。暇な日なんて一日もないわよ! あんたは希望ある? ——明日は『街に行く』のね。……あんたにしては良い選択じゃない。 ——じゃあ、昼ごはんも向こうで食べて、……え? 当然あんたのオゴリよ。 ——何よ、そんな盛大にため息ついて。大丈夫よ、そんな高くないとこにするから。 ——それで明後日は、……そうねえ、映画館でも行こうかしら。 ——あたしが何か変な事言った? 言ってないわよね? ——それで、土曜日は不思議探索に空けといて、……はい? ——一つ訊くけど、あんた、今まで何について話してたと思ってたのよ。 ——ふーん、へぇー。『SOS団のゴールデンウィーク中の活動予定について』ね。……ガッカリだわ。 ——せっかくデートのつもりで話してたのにぃ。あーあ、いいわよ、いいわよ。 ——あんたは鈍い奴だって忘れてたあたしが悪いのよ。はぁ……。 ——何よ、日曜日ぃ? ……予定考えてたけど、言う気なくしたちゃっわよ……。 ……。 ——『新しくできたテーマパーク』? それがどうしたのよ。 ——えっ……?! うぅーん……、そ、そうね、あんたがどうしてもって言うなら……。 ——うん、ともかく明日は遅れないようにね。じゃね。 ……良かったぁ、これでこの休みは毎日キョンに会える……。 楽しみだなぁ……。 ふふぅ、今日は楽しかったなぁ……。 買い物も結構したし、明日はどれ着ていってやろうかしら。これなんか良いかなあ。 ……うーん、にしても髪って伸びるの遅いわね。短めでも良いけどさ。 ——もしもーし、キョン? 突然だけどあんたは長いのと短いのどっちが好き? ——え、『何の事』って、髪の長さに決まってんじゃない。 ——ふむ、『長め』ね。参考に……してあげなくもなくもない気がしないわ。 ——バーカ、こんなのはノリで感じりゃいいのよ。 ——『嫌いな気がしないような日が今まで一度もないと言ったら嘘に……』って、長いわよ、アホキョン。 ——そういう事はビシッと一発で簡潔に決めないと。 ——そう、それでよし。……何よ、不満? ——あんたの背筋がむず痒くなるような台詞を時々聞かされてれば『好き』の一つや二つどーって事ないわよ! ……。 ——……一体どこにそんなクサいセリフをしまってるのよ。 ——信じらんないわ。……『殺し文句はハルヒ専用』ぅ? あんた、一度精神科に行きなさい。 ——あと、一つ訊くけど、お酒飲んでるでしょ? 間違いなく。だってあんたおかしいもの。 ——へぇ、『田舎のじいさま』が傘寿なの。 ……。 ——……はい、歯の浮くセリフ二発目。あんた酔うと手に負えないわね。 ——うん、もう何も言わないわ。今日はしっかり寝なさい。明日遅刻したら私刑ののち死刑よ! ——じゃあね! 悪酔いしてるキョンがちょっとカッコいいじゃない……。 でも酔うと殺し文句が出てくるのはまずいわね。 あたし以外の女の子の前では永久禁酒を誓わせないと……むぅ。 ……。 ……出ないわ。また風呂でも入ってんのかしら、しょうがない奴ね。 留守電入れとこ。……「キョン、これ聞いたら十秒以内にかけ直しなさい、いい、分かったわね!」 ……ふう、こんなもんね。さーてと、何しよう……。 ……。 うーん、どれもしっくり来ないわ。近頃夜はずっとキョンと電話してたからかしらね。 あーあ、暇よ、暇! 早くかけて来なさいよ……。 ……。 ……ぶぅー、遅ーい。最悪だわ、明日は私刑ね。ふふふ、どうしてやろうかしら。 ……あ、でもあんまりキツイのにすると明後日に支障がでるわ。……うーん、悩み所ね。 まあ、あいつの第一声で決める事にしましょ。……だから早くしなさいよぉ……。 ——! やっと来たわね。……もしもし、遅かったじゃない。 ——『電池が切れてた』ぁ? あんた、明日は覚悟しなさい。 ——『なぜ』かって言うと丁度今、私刑のフルコースが確定したからよ。 ——「奢り」から始まりあれやこれやを経て最後は「とっておき」が待ってるからね、逃げるんじゃないわよ? ——ふーん、『頭が痛い』のね、風邪かしら? でも休んじゃ駄目よ。 ——明日休んだら明後日は二倍後悔するわよ。……『明後日休んだら』、一生後悔してもらうわ。 ——さて、明日も早いしもう切るわよ。 ——……でも、明日、明後日と二日休んで、一生かけて償って貰っても良いけどね。 ——『冗談か本気か』って言ったら、どっちだと思う? ——ふふ。あたしは……結構本気、よ。 ——うん……じゃね! もしかしてあたしはバカ? ちょっとマズイかも……。でも、キョンとなら……良い、のかな? あ、親父おかえりー。……えー? 『何』って弁当の下拵えよ。 ……うん、まあ、『デート』みたいなもんね。……そうそう、そのキョンよ。 まあ、何だかノラリクラリしてるし、間抜けだし、みくるちゃん見て鼻の下伸ばしてるけど、 それでもその、……あれなのよ、うん。……『惚れた理由』が分かんないって言われても困るわよ。 ……ちょっ、バ……、エロ親父っ! 信じらんない! もう、あっち行ってよ! ……あー、腹立つ。何でそういう事を年頃の娘に訊けるのよ。もう……。 よし、終わり! 後は明日の朝ね。……さ、電話しよ、へへへぇ……。 ——もしもーし、元気? もちろん、あたしはバリバリよ! ……そこ、『死語』とか言わないの。 ——……そうそう、明日は八時に駅前集合よ。遅れたら罰金で、昼ごはん抜きよ。 ——折角のあたし謹製手作り弁当だから、食いそびれたら後悔することうけあいなんだから! ——そうよ、泣いて喜びながら食べなさいよ。……ところで、献立の希望はある? ……。 ——ふむ。……あたしの作った物なら『何でも良い』の……。 ——あんた、夜になると嫌味なくらいにクサい奴になるわね。 ——うわ、『男の性』って……あんたも親父と同類かぁ。 ——あ、因みに空気を読まずに……その、あれやこれやをしようとしたら死刑よ。私刑じゃなくてね。 ——……もうっ! 変態! バカキョン! ——……今日はさっさと寝なさい。あたしももう寝るから。 ——じゃあね! ……バカ! セクハラよ、セクハラ! あぁぁぁ、あのバカぁっ! ……。 ふぅ……。寝よ。 ただいまぁ。……何よ、親父。先に警告しとくけど、セクハラ発言一回につき一度殴るわよ。 『なら言うことがなくなる』って……もうっ! うるさい、言われなくてもお風呂入って寝るわよっ! エロ親父ぃ……、母さんもあんなののどこに惚れたのかしら。 ふぁぁ……、でも今日は疲れたぁ。お風呂入る前にちょっとだけ寝よー、っと。 ……すぅ、……ぴい。 んんっ……あっ! もうこんな時間だわ……。でもまあ、いいや。電話、電話っと。 ……。 ——もしもーし、……もしかして寝てた? そうなら一応謝っとくわ、ごめんね。 ——あ、そうなの? 奇遇ね。あたしも帰ってからすぐ寝ちゃって今起きたとこなのよ。 ——ふふふ、一種のテレパシーかもね。……って、うわ、つまらない反応。 ——もっとノリなさいよ、SOS団員としても、あたしの彼氏としても。 ——はい、もう一回! ……一種のテレパシーかもね。 ——……『恋のなせる業だろ』って、……実は言ってるあんたも恥ずかしいでしょ? ——へ、『平気』なのっ? どんだけ図太い神経してんのよっ? ——あたしにだけは『言われたくない』ですってぇっ?! ——……でもちょっと興味あるのよね。あんた、どれくらいのクサい台詞から身悶えすんの? ——へぇー、そう。分かったわ、言ってあげる。……『何で』って、遣られっぱなしで引っ込めるわけないでしょ? ——い、行くわよ! 「貴方の事を想うあまり今夜も一睡できません」、これでどうよっ? ——ちょ、ちょっと……、なな、何で笑ってんのよぉっ! 騙したの? 騙したんでしょ!? ——最悪最悪最悪ぅっ! あたしの一人損じゃないのっ! ——バカっ! 明日は覚悟しなさいよっ! 死刑よ死刑っ! じゃあねっ! キョンのくせに……キョンのくせにぃっ! ……確かに眠れないのは事実なんだけどさぁ……。……ふぅ。 げ……電池切れてる。どうしよう? ……ま、子機でも使えばいいか。 親父ぃー、お母さーん、ちょっと電話使うよー、っと。これでよし。キョンの番号はぁ……。 ——もしもーし、……うん、そうそう。携帯の電池が切れちゃってんの。 ——『おっちょこちょい』って言うなっ! すぐに切れる方が悪いのよ。 ——メーカー各社は電池の容量を増やす事に今以上に力を入れるべきね。 ——んー? 『誰か使うんじゃないか』って? ——多分大丈夫だと思うわ。夜に電話かけるなんて非常識極まりないじゃない。 ——あ、でもあたしたちは例外。……あたしが決めたからそれで良いのよ! ——……だって寂しいじゃないの。それにもう習慣になってるし、今更やめられないわ。 ——何よ、あたしが『非常識極まりない』って言うのがそんなに『似合わない』の? ——……一理あるけど、言い過ぎじゃない? ……ふん。 ——あれ? ちょっと待ってね。……何だか親父が呼んでるの。 何ー、親父? ……え、今あたしが使ってんだけど。……『誰』ってキョンよ。 あと少し待ってよ、そしたら切るから。……ダメって言われても……。 ……ふーん、キョンと話しさせてあげたら待ってくれるの? ——あ、ねえ、ちょっと親父が話したいんだって。代わるね。 ……はい、手早くすませてよ。三分以内ね。あと変なこと口走らないようにね。 ……。 『ガサツ』……、『ワガママ』……、『暴力的』……、『貰い手』……、『よろしく』ぅ……? ……! おぉやぁじぃっ?! 何の話題なのっ? 代われっ! 今すぐに代われぇっ! ……笑ってないで、早くっ! ——はあ、はあっ……。もしもしっ! 何言われたか知れないけど今すぐ忘れなさいっ! ——じゃねっ! ……こんのバカ親父っ! 待てぇっ! ——もしもし、あたし。……『元気ないな』? うん、そうね、ちょっと疲れてるの。 ——さっきまでバカ親父と話してたんだけど、それが中々大変なのよ。 ——『そうでもない』って……確かにあんたは昨日親父と喋ったかもしれないけど……。 ——んー、多分それ以上。何より話題が際どいのよ、うちの親父は。 ——どう贔屓目に見ても年頃の娘との会話じゃないわ。 ——『楽しくて良い』って言うならあんたも同類ね。……これじゃお母さんの事言えないわ。 ——あ、こっちの話よ。あんたは全く気にしないでいいわ。 ——『仲が良い』ように思えるならあんたはちょっと考え方を変えなさい。 ——当たり前じゃない! 誰が誰と『仲のいい親娘』なのっ? ……ちょっと待ってね。 何か用? 今電話中だから後にしてよ、親父。……って、その沈んだオーラは何? ……『娘に嫌われた』と思うんなら接し方を変える事ね。じゃ、キョン待たせてるし。 ——あ、ごめんね。あたしの発言聞いて親父がへこんでるだけだったわ。 ——『父親になるなら』家の親父みたいのが『いい』? あたし、……もう何も言わないわ。 ——……あ。 ……。 ——ねえ、キョン。電話越しに、不意打ちで、そういう系統のセリフは止めて。 ——軽く心臓が止まりそうになっちゃうわ。……お互い顔をあわせてないから、場の空気が分かり辛いのよ。 ——うん、そのかわり面と向かってならいくらでもいいわ。 ——ふふ。……ん、じゃね。 はぁ、『でもそれ以上にハルヒが隣にいればいい 』……って、ププププロポー、ズかな? ……うぅっ、熱い、顔が熱いわ。でも嬉しいな……えへへ。 あれ、電話だ。誰からかしら? ……あれ、非通知だ。やぁね。 ——もしもし、どなたですか? ……は? ……え、『メリーさん』? ——間違いじゃありませんか? ……。 って、切れた……。一体誰よ? ……でもどっかで聞いた事があるのよね、あの声。多分男ね。 誰かしら、キョン? うーん、違うわ……。古泉くん……でもないわよね、きっと。 まさか、谷口? ……論外ね。……まただ。 ——もしもしっ? また『メリーさん』? ねえ、さっきから誰なの?事と次第によっては怒るわよ? ——ちょっと、『家の前』って、え? 嘘でしょ? ——ホントに? ……あ、コラっ! 答えなさ……。 切れちゃった……。でも絶対聞いたことあるのよ。 むむぅ、キョンの友達の、国木田? ……違うわね。 ……まさか、ホントにあたしが知らない人なのかしら。……ちょっと、怖いじゃない。 ——もしもし。……か、『階段』? ……止めて、カウントしないでっ!? うぅ……階段の段数があってたんだけど……。ま、まさかね。 でも、さっきから何か軋む音が……、でも、お母さんも何も言わないし……。 ヤバイ、寒気がするわ。 ひぃっ! き、来た……。 ——も、もしも〜し。……あたしの『部屋の前』……にいるの? って、ちょっと待ちなさい。あの声は……。うん、きっと間違いないわ。 あたしとしたことが、何でもっと早く気付かなかったのかしら? 「あいつ」の番号は……。 ——もしもーし、バカ親父? 今、どこにいる? もしかして、もしかすると、あたしの部屋の前じゃない? ——……んふふ、『ご名答』、ねぇ? そこ、動くんじゃないわよ。今からそっち行くから。 ……こ、ん、の、ぶぁくぁ親父ぃぃっ! 娘からかって楽しいのっ!? 『涙目』なわけないでしょっ! ええぃ、ともかく、待てぇっ! ——もしもーし、……そうそう、あたし。……んー、まあね。 ——ちょっとさっきまで変態に絡まれてたのよ。……ああ、大丈夫よ。 ——返り討ちにして、粗大ゴミ置き場においといたから。 ——でも、嬉しいな。心配してくれて。……『当たり前だろ』ってまあ、そうだけど……。 ——それでも、あんたに気にかけて貰えるんだし。……たまになら良いかしら。 ——ああ、こっちの話よ。所でさ、近頃暑いわよね、無駄に。……うん。 ——でさ、去年の第一回市内パトロールがあった二日後のこと覚えてる? ——あ、酷っ! あまりの暑さにへばってるあたしが「扇いで♪」って、頼んだのに、あんた華麗に無視したじゃない。 ——そうそれよ。……確かにほんの少しぐらいあたし『フィルター』通してるけどね。 ——『少しじゃなく』ても、大筋は同じよ。……『何が言いたいか』? 決まってるじゃない。 ——大分勘が鋭くなったじゃないの、そうよ。……ふーん、『頼み方にもよる』の? ——……へぇ、随分と注文をつけるのね。まあやってあげるわ。 ——いっその事明日はカンカン照りが良いわね。そうね、今から照る照る坊主を作りなさい。 ——ノルマは一人百個ね。……『無理』も何もないのよ、やるったらやるのっ! ——だーって、暑くもないのに扇がれても面白くないじゃない。 ——と言うわけで切るわよ。今から作るから。じゃね! 明日期待してるわよ。 あいつも中々マニアックな注文するわね。 『首を可愛く傾げながら「扇いで♪」って、言ったら云々』とか。 ……暑いわね。ねえ、キョン。扇いで♪ まあ、こんな感じかなぁ……。それとももっと可愛くかな? うーん……。 ——もしもーし、あたしよー。……『調子』? うーん、まあまあね。 ——今日も親父の奴がうるさくてねぇ……ってそれはどうでもいいのよ。 ——うん? いや、そろそろ中間だけどあんた大丈夫かなって思って。 ——そうよ。あんた進学はしたいんでしょ? じゃあ、まず進級しなきゃいけないじゃない。 ——それに団員がダブるのも団長として気分が悪いしね、あたしが教えてあげるわ。 ——ふふ、遠慮しなくていいわよ。……それに、あたしのためでもあるんだし。 ——あ、今ならコースは三種類よ! ——「一夜漬けつきっきりコース」に、「お手軽三日間コース」に、「一週間コース」! ——どれも朝から夜まであたしがみっちり教えたげる。……へ? ああ、そんなの泊まりがけに決まってんじゃない。 ——そんな盛大なため息つかないの、……んで、どれが良い? ……。 ——そんなの無いわよー、だ。……う、う、う、うるさいわね! あんたがバカな事言うからいけないの! ——夜になると恥ずかしいセリフ吐くようになるのやめて、……せめてどっちかに統一しなさい。 ——あ、それは却下。一日中そんなセリフ言われ続けたら何か頭にわいちゃうからね。 ——……話戻すけど、ホントに赤点とったら死刑よ、死刑! ——もし万が一、留年でもしたら、産まれて来た事を後悔させたげるわ! ——え、『何で』って……。ねぇ? ……あたしにも色々あんのよ。 ——やぁよ、教えなぁい。察しなさいよ、自分で。 ——考えればすぐ分かるわよ。……まあ、ともかく明日から一週間みっちりやるわよ! ——ふふん、聞こえないわよー、だ。じゃねっ! 明日から一週間、一週間♪ ……へへへぇ……、張り切っちゃおっ! ……っだあ! 違ーうっ! これ間違えるの何回目かしら? さっきも言ったでしょ、これは運動方程式使うの! ……ああ、これもダメ! ……んもう、この公式も暗記リストに追加よ。 ふう、一旦休憩。……でも、思ったより壊滅的よ。……うん、知ってたハズなんだけどね。 ……いいかしら、キョン。『頭の出来が違う』なんてね、言ってもしょうがないの。 というか、余程の天才と救いようのない大馬鹿を除けばあとは努力と工夫次第よ、テストなんて。 あたしがあんたでそれを証明してあげるわ! ……ってそんな疑わしい目で見ないの。 まあ、いきなりトップに立てとは言わないわ。 でも、大学受験の時までにはあたしと同じレベル位までには引き上げたげるから。 ……え、『理由』? ……ねぇ? ……。 ……あ、あ、あんたの後ろはあたしの特等席なのっ! これでいいでしょ! ……ふん。 さ、十分休んだから、続き行くわよ……、って思ったけどやっぱやめぇ。 だって十二時回ってるもん。寝惚け頭じゃ入る物も入らないしね。 せっかく布団も用意してもらったし、「ここで」寝ようかしら。 なーに慌ててんのよ。……ふーん、『間違いが起きる』、ねえ。……ケダモノ。 なーんて、冗談よ、じょーだん。……あんたのベッドで寝るから。 ……。 ……『は』じゃないわよ。 だってそうすれば万一あんたが不穏な行動に出てもすぐ分かるし。 さあさあ、さっさと半分スペース開けなさい。大丈夫よ、大丈夫。 ……だってあんたにそんな甲斐性あったらもっと早く……。 ううん、なんでもなーい。じゃ、お休み。 ……ちょっと狭い。あ、でも暖かい。……ぐぅ。 ……よし、じゃあ今日はここまで! 昨日に比べたらまあまあな進歩ね。 と言うかあんた、普段から手を抜いてるだけとか……? 『ちがう』の? ……まあ、どっちでも良いけどね。 さあ、寝ようかしら。……何よ。『昨日みたいのはお断り』? 何で? ……ふんふん。 まあ、要するに持て余して眠れなかったのね。エロキョン。 ……あたしは昨日は良く眠れたんだけどな。何て言うのかしら、安心とか、そんな感じだったわ。 ……。 ふふふふふ……。そう。んー、別にぃ。ふふ。 実はあたしに良い考えがあるのよ! その名も! ……ちょっと、少しはノリなさいよ、つまんないでしょー。……そうそう。 では改めて。 その名も、コアラ作戦! まあ、これは口で言うよりやった方が早いわね。……ほら、布団に入りなさい。 へへぇ、……よいしょっ、と。 んー? 何慌ててんのよ。『昨日と変わらない』? そうでもないわ。 だって、まだ続きがあるの。ほら、こうやって、……。 昨日より近いし。暖かいし。 何か幸せぇ……。 おやすみなさい、キョン。 『……抱きつかれたら昨日より持て余すっての。やれやれ』 ただいまぁ、……って、うわ、ななな何よ! ちょ、離れなさい、馬鹿親父! んもう、たかだか数日キョンの家に泊まっただけじゃない、大袈裟よ。 ……それよりみっともないからその鼻水と涙をどうにかして。 〜盛大に鼻をかんでいます〜 ……だぁかぁら。勉強教えてただけだって。……『夜の』じゃないわよ。いっぺん死んでみる? ……『痛くなかったか』って、ナニガ イイタイノ カシラ? 人の話はまともに聞きなさいよ! ……あちゃー、ダメだ。お母さーん、助平親父が壊れたー! ……いつものことだけど。 ふう……。全く親父も心配性なんだから。あのバカキョンにはそんな度胸ないわよ、悲しいことにね。 まあ、それはそれとして。 ——もしもーし、勉強はかどってる? ……そ、ならいいわ。 ——それにしても眠そうね。そんなんで大丈夫なの? ——へ? あたしに『心当たり』は全くないわよ。……ため息つかないの。話してみなさいよ。 ——ふぅん、そうなんだ、へぇー。……ド変態。 ——『健康な男子高校生として当然の反応』ねえ……。じゃあ、一つ聞くわよ。 ——もしあたしじゃなくて有希やみくるちゃんだったらどうなった? ——あら、そう……。見境なし。ケダモノ! エロキョン!! バカっ! ——って……見境があれば良いってものじゃないわよ! うるさいっ! 笑うな、笑うなぁっ! ——ふふふ……。あんた、明日は覚悟しなさいよ。あたし法典による私刑のオンパレードよ。 ——……って、うわ! エロキョンっ! バカ、おやすみ! ……。『でも最後まで行くなら……』って、『最後まで行くなら』って! ……思わず切ったけど。あのバカバカバカバカバカ! 絶っ対夜になると人格変わってるわよ、悪い方にっ! ……。 はふぅ、寝よ。……まあ、眠れないけどね。はぁー……。 くしゅんっ! ……うぅ、風邪かしら。ちょっと頭痛いし、鼻詰まってるし。んん……。 ——はひ、もしもし。……んー、まーそうみたい。完璧に風邪ね。 ——ああ、いいわよ別に。切らなくても。そんなに酷くないし。寝てれば治るわ。 ——……ん、まあ、そこまで言われちゃうと、……しょうがないわね。 ——じゃあ、またね。 ふう、心配してくれたのは嬉しいけど、何か嫌ね……。 ……寝るに寝れないしねぇ。暇だぁ……。 羊が一匹、羊が二匹、三四がなくて、もう一匹、っと。……眠れるわけないじゃない。 あれ? 電話だ。 ——もしもし。……ってうわ、親父なの? 何よ。『欲しいもの』? んー、特にないけど。 ——何よ、その気味の悪い悪代官笑いは。……『楽しみにしてろ』って、何のこ——? 切れたわ。……もう、要件だけの電話なんて味気ないじゃない。 ……。 あ、親父帰ってきたみたいね。……色々うるさそうだから、寝ようかしら。 娘バカだしね。風邪なんてひいたら、大騒ぎするに決まってるわ。 ……なにー? 今からあたしは寝るとこなんだけど。 ……って、嘘っ!? 何で? キョン、何であんたがあたしの家にいんの? ……親父に『拉致られた』? 『任意同行だ』? ……親父、それほとんど変わんない。 あたしはむしろキョンに同情するわ。 ああ、目に浮かぶわね。突然家に乗り込んだ親父がキョンを拉致ってく様子が。 ……『平和的に引き渡されたの』? むしろ『喜んで見送られた』んだ。 ……でも、二人ともアリガト。……うん。 ねえ、キョン。一つお願いしていい? あ、別に無理難題じゃないわよ。 ……うん、そうそれ。……えへへ。キョンの手、温かい。 ……くぅ。 ——もしもーしっ! ……あたしは元気も元気よ! 風邪も治ったしね。 ——そういうあんたは暗いわね? まあ、どうせテストでしょ。 ——どこができなかったの? ……ふーん、そう。 ——あたしが教えた所以外で落とすんならしょうがないわ。 ——でも、あたしが教えたヤツ間違えてたら私刑よ。何がいいかしら……。 ——あ、ところでキョン。明日暇? ……そうそう、明日よ、明日。 ——んー、ちょっと付き合って欲しいことがあんの。 ——そんなすごい用事じゃないわ。ちょっとした買い物よ。 ——まあ、あたし一人で出来ない物でもないんだけどね。あんたがいるとスムーズに行くのよ。 ——ほら、そろそろ夏だし? で、夏と言えば海で、海と言えばね……分かった? ——その通り! ……やっぱりあんたの気に入るようなの買いたいじゃない。 ——んで、明日暇? 暇よね。そうに違いないわっ! ——えぇっ? 『用事があるの』? 最悪ぅ……。 ——キャンセル出来ないの? ……そう、なんだ。……うん、じゃね。また学校で。 あーあ、ついてない。……何よ親父。その広げた手は。 だから何なのよ! その意味深な笑いはっ! うっ……ま、まあ、親父の言う事だから、半分位は信じたげるわ。 ……。 あ、キョンから電話だ。……って、笑うな! 出てけっ! ……なぁにが『惚れた弱味』よ、バカ親父。アリガト。 ——もしもし。どうしたの? ……ふーん、突然取り止めになったの。 ——じゃあ、明日付き合いなさい。九時に駅前ね! じゃあ、明日! よーし、明日に備えて今日は寝るわ。……ふふふ、へへぇ。 ――もしもーし、寝てた? ……んー、何と無くよ。理由はないわ。 ――ああ、蚊ね、蚊……。うるさいわよね、あれ。耳元で飛ばれるともっすごいイライラすんのよ。 ――? 古泉くんがどうかした? ……変なの。ま、今に始まった事じゃないけど。 ――そういや近頃暑いわよね。あんたのところ冷房は使い始めた? ……『まだ』? ――ふうん、家と同じね。あたしの親父の信念なのよ、『クーラーは夏休み入ってから』ってね。 ――『暑い』けどまあ、慣れちゃったし。多少は人間気力でなんとかなるもんよ。 ――なーに笑ってんの。……ねえ、あたしらしいってどの辺りが? ――『多少の事は精神論でねじふせる』あたりね……。 ――あたしはどこの熱血スポ根漫画の監督よ。……ん? あんたのイメージ? ――そうねぇ……。間抜け面、優柔不断、鈍くゎ……。えへん、鈍感、の三点ね。 ……。 ……。 ――わ、笑いたきゃ笑えば良いでしょ! ――誰にだってミスはあるわ! ……う、うるさいわよ、バカキョン! ――か、かか『可愛い』って言うなぁっ! あたしは恥ずかしいのよっ! ――もう切るわよっ! じゃねっ、アホキョン! 明日覚悟しなさい! ……ふぅ。 ……。 ――もしもーし、おはよっ! 元気? ――何よそれ。わざわざあたしがモーニングコールしてあげたんだから、もっと喜びなさい。 ――『突然どうした』ってまあ、色々とあってね。いいじゃない、理由なんてどうでも。 ――『もう少し寝てたい』とか、たるんだこと言わない! あたしなんかは常に不思議に対して警戒体制よ。 ――……もっとも近頃はあんたのその不意打ちの恥ずかしい台詞に対して警戒気味なんだけど。 ――ねえ、前から気になってたんだけど、あんた電話に出ると人格変わる? ――そんな事は『ない』の? ふーん……。まあ、いっか。 ――あ、でさぁ、本題なんだけど。今日の放課後ちょっと付き合って欲しいのよ。 ――んー、買い物。……『学校で言えば良い』のは認めるけど……。 …… ――……あ、朝からあんたと話したかったのよ! 悪い? ――『悪くない』でしょ。って……! か、か、か、かわ……っ! ――うるさい! ともかく放課後ついてきなさいよ! じゃね、後で会いましょ! 『カワイイ』……、可愛いって言われたぁ……。嬉しいなぁ。えへへへ……。 ……。可愛い……。 ……って、あ゛ー! もうこんな時間! ちょっと幸せ気分に浸り過ぎたじゃない! キョンのバカ! あたしが遅刻したら理由をつけて私刑にしてやるうっ! うーん……。暇ねえ。空から宇宙人を載せた隕石でも墜ちて来ないかしら。 ん、電話だ。この番号……誰? 見たことあるんだけど、……ま、誰でも良いか。 ――もしもし。……あら、あんただったの。どうしたの家からかけて来るとか、携帯ぶっ壊れた? ――へぇ、『行方不明』なの? ……うっかり者ね。 ――鳴らしてみれば? 案外すぐ見付かるかもしれないわ。 ――うん、じゃあ一旦切るわよ。 ……。 はれ? 何か鳴ってるわ。 ……あ。 そうだ。そういや今日の部活の時にあいつから携帯借りてたんだった。 それで確かポケットに入れっ放しだわ。あちゃー……。止まったわね。 ――もしもし、キョン? あのね、すっかり忘れてたけどあんたのあたしが持ってた。 ――うん、……うん。明日朝一で渡すわ。 ――え、そう言われると見たくなるじゃない。 ――な、何よ。冗談よ、冗談に決まってるじゃない。マジになりすぎ。 ――大体あたしはあんたのプライバシー侵害するほど落ちちゃいないわよ。 ――本当よ。……うん。じゃ、また明日ね。バイバーイ。 ……なーんてね。覚悟しなさいよ、キョン。といってもちょっと確認するだけ。 あいつがあたしをどんな風に登録してるのかだけ。 ……。 ……ああああいつ何、何考えてんのよ! かかか『可愛いハルヒ』とか! 人に見られたらどーする気ぃ? ……うん……寝よう。見てはいけないものを見た気分だわ。 ――うぅ、顔が熱い、熱いわ……ふみゅ。 ――……。 どうしたのかしら。あたしが電話してんのに出ないとか人間失格よ。 ちえ、暇だわー。何しようかしら。 ……あー、親父帰ってたの? 『元気ない』って? んー、乙女は大絶賛失恋中なのよ……って、冗談よ、冗談! なんで包丁が懐から出てくんの!? 親父実は人殺し? ストップ、ストーップ! 娘馬鹿にも程があるわ! 母さん、親父止めて……って何よその「あらあら、うふふ」的、「あたしは無関係よ」的な笑顔!? ……あ。キョンから電話来た。……こら、勝手に持ってくな、バカ親父! ……ホラーだわ。娘の携帯を左手に、包丁を右手に持ちながら娘の彼氏と話をする父親って。 ……。 親父、もういい? 携帯返して。それと危ないからそれもしまってよね。 ――もしもし、どうしたのよ。……お風呂? 前にもあったわね、同じようなの。 ――いっそ防水携帯にしなさいよ。あたしもそうするから。 ――『長風呂でのぼせて風邪引くのがオチ』って、ロマンの欠片もない奴ね。 ――そんなんだから何時までたっても「団員その一」から昇進しないのよ。 ――……ん、まあ、言われてみるとその肩書きは増えたわね。 ――……ちょっ! あんた何その血迷った台詞っ! ――うううるさい! 暑くなって頭に気障ムシでもわいてるんじゃないのっ? ――……ふん、じゃあねっ! 有り得ない、どんだけ頭が緩んででも「愛しのハルハル」だけは、有り得ないわ。 人前で言ったら私刑確定ね。……一対一なら――。うぅ……なんかくすぐったくなりそう。 ――もしもーし。……そうそう。 ――それにしても今日はすごい雨だったわね。お陰で市内探索も中止になっちゃうし。 ――うん、雨はあんまり好きじゃないわね。なんか鬱陶しいじゃない。 ――あ、でも学校からの帰り道は別よ。 ――……ご名答。あんたにしては鋭いわね。 ――そうよ、あんたの鈍さに何人泣いた事か分かりゃしないもん。 ――だーかーら、団長のあたしが責任と愛情をもってあんたを引き取るのよ。 ――うっ……。まあ、確かに告白はあんたからよね。 ――でも、あの時はびっくりしたわ。世界が逆さまになるくらいの衝撃ね。 ――……んー、そうね。じゃあ、明日は久しぶりにデートしましょ、デェト! ――何を今さらそんな単語でうろたえてるのよ。一夜を共にした仲じゃない。 ――え? 『誤解を招く言い方はやめろ』? 大丈夫よ、誰も聞いてないから。 ――ふふん。そうと決まれば、明日は朝の九時に駅前に集合ね。 ――遅かった方がばっき……え? あ、そう……。うんまあ、『男の役目』って言うなら止めはしないけど。 ――張り合いないわぁ……。ま、いっか。 ――うん、じゃあ、また明日ね。 ふう。……デートかぁ、キョンとデート……。ふふふ。久しぶりよね、つい前までテスト期間だったし。どこに行こう。 ……テーマパークとかでお化け屋敷に入って、柄にもなくキャーキャー言いながらキョンの腕にしがみ着いたりとか、 デパートとかで服買うのもいいかしら。ちょっと際どいのでも試着したり……? あるいは突然の雨を避ける為に入ったとこが【禁則事項】だったりして……うわぁ。 ……って、落ち着きなさい、あたし。余りの大胆で馬鹿げた妄想に自分で顔真っ赤だわ。 ……もう寝よう。 ――もしもし……うん、あたし。 ――でも、あれね。やっと夏ーって感じよね。 ――あ、そうそう。宿題は早めにやっちゃいなさいよ。 ――去年みたいに、夏休み最後にまとめて写す、なんて認めないからね? ――うっさいわね。大体なんでそんな断定されなきゃいけないのよ。 ――う……。じ、じゃあ、そうね。こうしましょ。 ――前半に一気に仕上げて後は一日も休まず遊び続けるの。良いでしょ? ――何よ、その反応は。不満? ――『会えない日があるから会えた日が輝く』なんて、何時の時代の台詞よ? ――いいかしら、キョン。あたしは一日たりとも無駄にする気はないのよ。 ――毎日がお祭騒ぎでこそ、人生でしょ! ――隠居なんて愚の骨頂よ? ……そ、分かればよろしい。 ――じゃあ、さっそく明日から始めましょ。泊りがけでやっちゃうわよ。 ――異論は認めないわ。……それはどういうつもりで言ってるのかしら? ――『親が旅行でいない』ってのはつまり「襲っちゃうぞ」宣言でいいのかしら? まあ、不潔。 ――……。何よ、笑いたきゃ笑えばいいでしょ。人間だから、そんな日もあるわよ。 ――その微妙に押し殺した笑いが余計ムカつくわ。 ――明日覚悟しなさいよ。絶対に出会い頭にドロップキック決めてやるわ。 ――……ふん、じゃあね。 キョンの親、明日からいないんだ……。あ、でも妹ちゃんは当然いるわよね。 ……って何考えてたのよ、あたし。……うう、頑張れあたしの理性。 明日からしばらく耐えてよね、お願いだから。まだ、一線を越える覚悟はないのよ、ホントに。 ……寝よう、明日は明日の風が吹くわ。――ぐぅ。 ——もしもし、あたしよ。 ——……なに、その寝ぼけた声は。 ——まさか、寝てたんじゃないでしょうね。 ——まあ、確かに近頃電話かけなかったわ。それはそうね。認めるわ。 ——……何よ、『偽者』ってずいぶんな言い種じゃない、キョン? ——さあ、今すぐ、あんたの、あたしに、対するイメージを洗いざらい吐きなさい。 ——……え? もちろん『正直に言わなかったら』、罰ゲームのフルコースよ? ——……。 ——……。ん。 ——……。……く。 ——ああ゛、あったま来た! ——いくら正直にって言っても言い過ぎなのよっ! このバカキョ——ん? ——……今の、もう一回。 ——……。 ——うん、じゃあ、お休み。 ……あーあ、何であんな単純な一言で許せちゃうのかしらね。 やっぱり恋愛なんて精神病だわ。 ……悪くは、ないけどね。 ふぁ。ねむ……。お休み、キョン。 ——もしもし、元気? ——はぁ……、いつも通り気の抜けた声ね。あんたらしいっちゃあんたらしいけど。 ——でもまあ、元気そうで安心したわ。……ん、別に何でもないわ! 聴こえなかったらそれでもいいのよ。 ——それで、いつ頃こっちに帰って来るわけ? ……明日なの、ふーん。 ——なっ、あんたにお土産なんて期待してないわよ、ガキじゃあるまいし……。 ——ともかく。これから巻き巻きで夏の予定をこなすからね、腹をくくっときなさいね! ——……何よ、その腑抜けた台詞は! 『従兄弟と散々遊んで疲れた』なんてあたしは認めないわ。 ——家族サービスしたら次は団員にサービスしなさい、良いわね! ——それじゃ、またね。……お休み! 明日かぁ、……明日帰って来るのね。駅前ではってようかしら? そうよ、一分一秒でも早くあ、……会いたいもの。 ……。 あー、恥ずかしい。寝よ。
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ノとは、挨拶のひとつ。 誕生 起源は定かではないが、正式な記述は (=゚ω゚)ノ ぃょぅ と、いう候補が有力とされている。 このアスキーアートの略として、手の部分である「ノ」のみが残されたのだと思われる。 意味 「こんにちは」を、よりフランクに言った意味合いで使われる。 親しい間柄で「やぁ」「よぅ」「ちーっす」などを使う代わりに表現されることが多く、 初対面の人に対して使うことは、場合によっては失礼に当たることもある。 「ノシ」について 「ノシ」というものも存在する。 これは「ノ」とよく似ているが、意味は逆で「さようなら」「じゃあね」「またね」といったニュアンスを持つ。 これについても起源は諸説あるが、元の形としては (^^)ノシ だといわれている。(顔の部分には本来何が入るのかはわかっていない) 手を振っているようなようすっぽく見えることから、このような意味合いを持つアスキーアートとなった。 関連項目 こn
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仕事終わって家に帰って玄関を開けたら 「ゆっ!」 って自分が帰宅したことに気づいたゆっくりが急いで玄関までやってきて 「ゆっくりしていってね!!」 なんて円満の笑みで言われてみたいです。 んで抱っこしてあげると、 「だっこ! ゆっくりだっこしていってね!!」 なんて言うからもう辛抱たまらん訳で。 ま、悲しい妄想なんです。 名前 コメント